CULTURE 2020.12.29
世界を股にかけたアートディレクター、石岡瑛子のデザインを堪能する
世界的な巨匠とのコラボレーションで知られる故・石岡瑛子。世界初の大規模回顧展で、唯一無二の刺激的な世界に浸る。

迫力あるモノクロのポートレート。石岡瑛子(1938-2012年)の骨太で激しい人柄がよく表れている。撮られたのは、ニューヨークに拠点を移して間もない1983年。それ以前の60~70年代に、彼女は資生堂やパルコなどの広告を手がけ、ポスターが盗まれるという社会現象を起こしたグラフィックデザイナーであった。活躍の場を海外に求めてからは、レコードジャケット、映画衣装、オペラ、サーカス、オリンピックのプロジェクトなど、それまでと異なるジャンルで、世界的な巨匠たちとコラボレーション。なかでも映画『ドラキュラ』の衣装でのアカデミー賞受賞は、キャリアのハイライトだろう。
集団の中でも輝く個性
そんな石岡の回顧展が大きな話題になっている。東京都現代美術館の展示室に足を踏み入れてまず驚くのは、彼女の独特な低い声が響き渡っていること。とても死の半年前に録音されたものとは思えない力強さだ。そしてその声が、石岡の作り出す世界は単に「キレイ」では済まないことを予感させる。
展示は時系列に構成され、最初のパートは40~50年前に世に出た広告。展示品を目にしたことがある人は多いはずだ。古さを感じさせることなく時代を超えた美しさがあり、今見ても新鮮である。また、数種類作られたマイルス・デイヴィスのアルバム・パッケージ案には、細かな指示書きが。仕事の進め方が分かり興味深い。

さらに驚かされたのが、既成概念にとらわれない創造性である。例えばドラキュラは、誰もが知っている黒マントに牙のあの姿ではない。筋肉のような鎧を纏っているのだ。石岡の衣装はファッションとは違う、映画やオペラのビジュアル全体を支配するアートワークなのである。こうした展示が圧倒的な物量で続く展覧会は、見応え十分だ。
アートディレクターという仕事は、多くの人との共同作業である。しかし展覧会を通して観ると、石岡瑛子という一人の個性が浮き上がってくるから面白い。そして、本当に強い人なのだろう。女性であり日本人というマイノリティでありながら、創造の世界で一人、海外で奮闘していた石岡瑛子の仕事に、多くの人が刺激を受けるに違いない。



■「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」は2021年2月14日まで東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1)で開催中
詳細はハローダイヤル03-5777-8600、または美術館ホームページまで https://www.mot-art-museum.jp
文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)
(ENGINE2021年2・3月合併号)