いま着けたいのは、“物語” のある時計--。その興味深いストーリーを知るほどに魅力は深まるばかり。ここに現代の名品たちを主役にした珠玉の短編集を編んでみた。



SEIKO
“良いものは、あえて変えずに熟成させていく”、そんな欧州の老舗ブランドでは当たり前のやり方を明確に打ち出したのが、プロスペックスのハイエンドコレクション「LX」ライン。ロングセラーを続ける定番には必ずルーツがあり、進化を続けてきた歴史があるように、LXラインの原点となったのは1968年製の機械式ダイバーズだ。
丸型と角型のインデックスで瞬時の視認性を高め、リュウズを4時位置にオフセットして手の甲に当たらないよう工夫するなど、セイコー技術陣が総力をあげた傑作だった。1970年には冒険家の植村直己氏がエベレスト登頂に携行したことで、信頼性の高さも証明された。
それから半世紀、脈々と継承されてきた国産ダイバーズのDNAは、2019年に誕生したLXラインのモダンな機能美に昇華。たとえばケース正面からラグにかけて、世界最高峰の磨き技術であるザラツ研磨を施した鏡面が取り巻き、腕元に美しい輝きと品格を与えてくれる。また、駆動装置のスプリングドライブは温度変化や衝撃に強く、アクティブなシーンに最適な高性能エンジンといえる。現代最高の技術が注ぎ込まれ、スポーツ系の頂上モデルとして、将来の永久定番が約束された由緒正しき国産時計である。
文=大野高広
(ENGINE2020年9・10月合併号)