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CAR 2020.9.11 

"軽さ"こそ正義! ケータハム・スーパーセブンでスポーツカーの凄さを初体験 

それぞれの人生で出会った「決定的なクルマ」について綴ったエッセイです。自動車ジャーナリストの嶋田智之さんが選んだのは、「ケータハム・スーパーセブン」。人生を変えたクルマの物語をどうぞお楽しみください。

“軽さ”こそ正義!

自動車専門誌の編集部員としてまだ駆け出しだった約30年前、先輩の勧めで乗った“セブン”は、これまでのクルマの概念を破るとんでもないクルマだった。

1967年の英国TVドラマ『The Prisoner』に登場していたロータス・セブンのレプリカを、ケータハムが1989年に販売。歴史あるモデルならではの特別仕様。

クルマが殺気を放つこともあるのだと痛感させられたフェラーリF40の初試乗は忘れられない。造形には神が宿ることを感じさせてくれたディーノ246の美しさも忘れられない。エンジンは“味”なのだと教えてくれたV12ヴァンテージには、今も恋い焦がれてる。長いことクルマ好きとして生きてきて、心にくっきりと刻まれたクルマは山ほどある。

けれど、最も衝撃を受けたクルマは何かと問われたら、それは間違いなくケータハム・スーパーセブンだ。クルマに対する価値観のようなものを、たかだか5分たらずでガラッと変えてくれたほどの存在なのだから。

あれは22歳だったか23歳だったか。いずれにしても30年と少々前のことだ。当時はまだこの業界に足を踏み入れたばかり。今よりもっと縦の関係が厳しい時代で、経験を積んで認められないと高額なクルマや高性能スポーツカーには触らせてももらえないような風潮も色濃かった。憧れていたポルシェ911を1日でも早く運転してみたくて、脆いといわれたクラッチを傷めず操作できるよう、トルクのない軽自動車をアイドリングでクラッチ・ミートしてからスタートさせる練習をしたりとか、マジメに努力をしていた頃だった。

そしてある日のこと。先輩が自分の愛車を指差して“乗ってみる?”と勧めてくれた。それがケータハム・スーパーセブンだった。

“軽さ”という快感に鳥肌

初めて走らせるスーパーセブンは、それまでの乏しい体験でできあがっていた自動車というものの概念から、思い切り外れたとんでもないシロモノだった。蹴られたサッカー・ボールにでもなったかのような、瞬間的な加速。つんのめったかのように減速するブレーキ。心の中で“曲がれ!”と唱えただけでコーナーをシュパッと素早く置き去りにできちゃうハンドリング。今だからお粗末ながら言葉にすることができるけど、あのときはただただ目をひん剥いて驚くので精一杯だった。1980年式の1600GTスプリント。110psといわれていた1・6リッターOHVのケント・ユニット、リアはリジッド・アクスル。スペックとしては他のスポーツカー達より見劣りしてたし、あの当時にしてもメカニズム的には古めかしいクルマだったけど、一発でマットに沈められたような気分にさせられた。クルマにとって、とりわけガチなスポーツカーにとって、“軽さ”というのは何にもまさる正義なのだ、ということを──理屈では知ってたけど──身体に激しく叩き込まれたのだった。

御存知のとおりセブンは、60年を優に越える歴史を持つスポーツカーだ。1957年にロータスが最初のセブンを発表して以来、鋼管を組んだフレームにアルミパネルを貼り付けてセミ・モノコック構造とし、そこにサスペンションやブレーキなどを組み付け、パワートレーンをマウントするという基本を変えないまま、今も作り続けられている。もちろん鋼管の太さや組み方、脚のアーム類の長さや太さ、バネやダンパーの硬さなど、全てが時代とともに磨き続けられてきた。エンジンに至っては様々な個性が与えられたかなりの種類が用意され、シャシーその他もそれぞれにマッチしたチューンがなされてきた。660cc3気筒80psのしなやかで自在感の強い穏やかなモデルから、2リッター4気筒スーパーチャージド310psのGに耐えられる首筋やトラクション・コントロールの代わりをこなせる右足が必要になるハードコアなモデルまで。

だが、テイストにそれぞれ幅はあるものの、それらは全てセブン。乗り手が味わえる楽しさや気持ちよさは、同じベクトルの上にある。そしてそれらは例外なく“軽さ”が生み出すものなのだ。500kg台、いや、モデルによっては400kg台という吹けば飛ぶような車重が、満面の笑みや快感の鳥肌を生み出すのだ。

“走る”以外に能力のないこのヤクザなクルマに、ずっと惹かれてる。

文=嶋田智之(自動車ジャーナリスト)

(ENGINE2020年7・8月合併号)

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