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CULTURE 2020.7.12 

盲導犬に代わる!? “AIスーツケース” で考えるテクノロジーとデザインの融合

視覚障害者を助ける最先端技術に、デザインはどう関わっていくべきなのか? 毎年、ロンドンで行われている国際カンファレンス、CogXに登壇したデザインエンジニアの吉本英樹氏が、その取り組みと意義を伝える。

AIスーツケースを実験中の浅川智恵子氏。

CogXは、毎年6月にロンドンで開催される人工知能と先端テクノロジーの祭典。2019年には、700人近くのスピーカー、約2万人の聴衆が参加した。しかし今年はCogXもコロナ禍の影響を受け、全面的にオンラインに移行。発表から僅か2カ月後、昨年を上回る規模で、ヴァーチャルカンファレンスが実施された。

私も登壇のオファーを受け、セッションを任された。テーマはテクノロジーとデザイン。この社会の状況を受けて、科学者とデザイナーが共に未来を創っていくような例を示したいと思い、現在プロジェクトをご一緒している浅川智恵子氏をお誘いすることにした。

浅川氏は、中学生の頃に両眼の視力を失い、それにも関わらずコンピューターサイエンスの研究者として数々の発明を生み出し、視覚に問題を持つ人々を助けてきた。現在はIBMフェローかつ米カーネギーメロン大学教授を務め、来年には日本科学未来館の館長にも就任する。

今年のCogXセッションの様子。イギリス、アメリカ、日本を中継して行なわれた。上段左が吉本氏、下段左が浅川智恵子氏。

セッションでは、浅川氏が研究を共にしているカーネギーメロン大学のKris Kitani氏にも参加頂いた。まず浅川氏にこれまでの研究について話して頂き、視覚障害者を屋内で正確に目的地まで誘導するアプリや、撮影した写真をAIが解析して写っている物を読み上げる技術、予め自分の所有物を登録しておき、後日カメラにかざせば内容を教えてくれる技術などが紹介された。

「缶を持ってもビールなのかコーラなのか分からない、それが大きな問題」と説明する浅川氏だったが、まさに自分が当事者として様々な苦労を経験しているからこそ、本当に必要なものを生み出せる。コンピュータービジョンの専門家であるKitani氏からは、その裏側にある要素技術について説明があった。

そして最後に、浅川氏が現在取り組む「AIスーツケース」が紹介された。自動運転車の如くLiDARで環境を測定し、AIで処理しながら自律走行するスーツケースである。空港や街で、ユーザーを希望の場所まで案内する。

奇しくも私は、昨年発売されたGlobe-Trotterの最新スーツケース「AERO」の開発に携わったばかり。ご縁あって、このプロジェクトにも参加することとなった。私が加わった当初の試作機は、荒削りなロボットに、市販のスーツケースを上から被せたようなもの。

私の仕事は、これをファッションとしても最上の、「本当のスーツケース」に設計し直すこと。盲導ロボットである以前に、周りの人も羨むクールなスーツケースでなければならない。街や旅に連れて歩きたい、ファッションを楽しむ自由を、享受できるものにしたい。

初期のAIスーツケースのプロトタイプ。こちらのスーツケースを、ファッションとしても最上のものに設計しなおすのが吉本氏の仕事だ。

CogXでこのようなセッションを紹介できたことは重要だと思う。技術は困難を解決し、出来なかったことが出来るようになる。しかし、それだけでは不十分である。自信を持って、快適にそれが出来る、ということが大切である。そこに、科学者とデザイナーが一緒に考えることの重要性がある。

文=吉本英樹
(ENGINEWEBオリジナル)

ロンドンの閑静な住宅地にある「タンジェント・スタジオ」での吉本氏。 (ENGINE2019年12月号)

吉本英樹(よしもと・ひでき)/デザイン・エンジニア。1985年生まれ、和歌山県出身。2008年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業、2010年同大学院修士課程を修了。同年日本人工知能学会全国大会優秀賞、2013年LEXUS DESIGN AWARDなど受賞多数。2016年英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート博士課程を修了。同時にロンドンにてTANGENT(タンジェント)を設立。2019年にはエルメスの大型インスタレーションを手掛けたほか、グローブ・トロッターの新シリーズ「エアロ」のデザイン・エンジニアリング・ディレクターを務めた。工学、デザイン、アートと、領域を超えたユニークな活動が注目されている。

 

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