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CAR 2020.9.19 

金子浩久さん/中古車のトヨタ・カルディナで挑戦したユーラシア大陸横断の大冒険

それぞれの人生で出会った「決定的なクルマ」について綴ったエッセイです。自動車ジャーナリストの金子浩久さんが選んだのは、「トヨタ・カルディナ」。人生を変えたクルマの物語をどうぞお楽しみください。

冒険はいまも続いている

ウラジオストクからユーラシア大陸の 最西端、ポルトガルのロカ岬まで 1万5000㎞をクルマで走る。 想像を絶するその冒険の相棒が カルディナだった。

ハバロフスクを出発してシベリアを西へ向かい始めた日のランチ。後ろの建物は街道沿いの食堂。ドライブインのようなものだから、トラックや他のクルマな どもここでひと休み。看板に「KaⅠoe」とあるのは、ロシア語で「Cafe」のこと。カルディナが泥で汚れているのは、幹線道路でも未舗装の部分が多かったから。

わが人生のクルマのクルマは、1996年型トヨタ・カルディナ1・8CZです。

東京から運転して、ユーラシア大陸を横断したクルマです。2003年に中古車情報誌に37万円で売りに出ていた7年落ち。富山県伏木港から一緒にフェリーに乗り、ウラジオストク港からロシアをひたすら西に進み、ヨーロッパを南下してユーラシア最西端の地ポルトガル・ロカ岬まで2か月1万5000km。

自分のクルマを運転してヨーロッパに行くのは長年の夢でしたから、格別のクルマです。同じような旅をもう一度行ったとしても、“初めて行ったクルマ”として、このカルディナに寄せる想いは今後も変わらないでしょう。では、なぜ、カルディナなどを選んだのでしょうか?

ユーラシア大陸を横断するとしても、ドイツ以西のヨーロッパ圏内はそれまで散々と走ったことがありますが、ロシアやベラルーシ、ポーランドなどは未経験です。特にウラル山脈以東のロシアの道路状況と交通環境に関する情報が準備中を通してほとんど得られませんでした。グーグルアースなんて、もちろんまだありません。対応が冷たかった狸穴のロシア大使館、怪しげな商社、モスクワの事情しか知らないことを恐縮していた留学生など。

過酷なのであろうシベリアの悪路に万全に備えるためには、トヨタ・ランドクルーザーやランドローバー・ディスカバリーのようなローレンジ・モードを使える副変速機を備えたヘビーデューティSUVしかないだろう。でも、それらは大きく重く、燃費も良くない。ガソリンスタンドがどれだけの間隔で設けられているかもわからないから、燃費は重視したい。悪路走破能力と燃費を秤に掛けて、ずいぶんと考えました。

別の観点も出てきました。彼の地はクルマ泥棒が多く、その手のSUVは彼らに大人気らしい、と。首尾よくロシアに渡り、シベリアを西に向かって走り始めたはいいけれども、ロシアの真ん中などでクルマを盗まれたり、最悪の場合は襲われたりしたら目も当てられない。

クルマ泥棒が欲しがるようなものは避けつつ、3人と多くの荷物が載せられるクルマ。ロカ岬まで走っていくために、クルマにとって欠かせない要素は何と何で、優先順位をどう付けていくか?

すごく考えたし、自動車メーカーのエンジニア、整備工場の主人、ロシアを運転したことのある人などを探し出して質問をぶつけ、意見を求め続けました。その過程で、道中の修理や整備なども考慮する必要に迫られた。ノートラブルがもちろん望ましいが、長い道中で修理や整備が必要になった時はどうするか?

逆から考えれば、 “修理や整備しやすいクルマ”を選べば、不安要素をひとつ軽減できるのではないか。生産台数が多いトヨタやフォード、フォルクスワーゲンなどの中から選ぶことが順当な帰結となりました。

クルマ選びに限らず、道中ずっと、目的を果たすためにはどんな手段がふさわしいのかを可能な限りスタンスを広げて考え抜く訓練をカルディナは僕に施してくれました。こんな体験は人生で初めてのことでした。案の定、4回修理工場に入り、一度は渋滞走行中にリアタイヤをナイフで切り裂かれました。

また、 「それ以上考えてももう答えがなさそうなところまで考え抜き、答えが見つかりそうもなかったら、潔く、進んで流れに身を投じること」 。つまり、 “問い”に対する“答え”が必ず存在しているとは限らず、“答え”は自分が作らなければならない場合もあるということです。これも、準備中からの旅を通じて学んだ大きな教えで、以後、何かに迷った時の自分の判断基準となっています。文字にすると平板ですが、カルディナと走った1万5000kmが自信を与えてくれています。カルディナは僕の人生を変えてくれたし、今でも影響を与え続けてくれているのだと感謝しています。

文=金子浩久(自動車ジャーナリスト) 写真=田丸瑞穂

(ENGINE2020年7・8月合併号)

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