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CAR 2020.9.8 

人生を変えたクルマ ビッグサイズのアメリカンワゴン、フォード・トーラス

それぞれの人生で出会った「決定的なクルマ」について綴ったエッセイです。スタイリストの石川英治さんが選んだのは、「1995年型フォード・トーラス・ワゴン(3.0GLワゴン)」。人生を変えたクルマの物語をどうぞお楽しみください。

いつも一緒だった

スタイリストという仕事だけでなく、プライベートにおいてもかけがえのない存在だったトーラス。時を重ねてボロくなっても乗り続けたかった忘れられない1台。

フォードのトーラスを手に入れたのは1990年代半ば。ポケベルから携帯電話へと通信手段が変わりつつあり、新しいクルマの文化が始まる狭間のように感じた時代でした。車内に地図を常備していたものの、機能的なカーナビが登場し、劇的にカーライフが変化していったことを覚えています。クルマに関してはアメ車へ憧れていたこともあり、そもそもトーラスを買う予定ではありましたが、コルベットやマスタングといったスポーツカーにも魅力を感じていました。ただ、スタイリストの仕事を始めていたこともあり、そのために最も適したクルマを選びたいと考え、少ない資金を手にフォードのディーラーへ向かった次第でした。

実際に手に入れてみるとトーラスは、アメリカ本土ではファミリーカーというイメージが強いですが、日本、そして東京の街で映るその姿はまさに自分のイメージしていたアメ車そのもの。大きい車体にパワフルなエンジン、スタイリッシュなデザイン、そして重厚感。何よりも色が素晴らしかった! 選んだ色はインディゴブルーと呼ばれるものだったのですが、まるで青空の色のようでした。また、このクルマの最大の魅力は、ワゴンの中でも積載量が大容量だったこと。スタイリストとしてさまざまな荷物を積むのにこれほど心強いことはありません。また、アメ車であることを強く感じさせてくれるコラムシフトやベンチシートは、助手席との距離をとても心地良いものにしてくれ、その時々の気分で近付いたり、離れたり。時には足を伸ばして寝ることもありました。

トーラスを手に入れたばかりの頃は、まだ仕事が忙しくなる前でした。お金も無く、どこか仕事半分、遊び半分。それでもクルマさえあれば毎日が楽しかったのをよく覚えています。仕事だけでなくプライベートにおいても行動範囲を広げてくれる存在で、コミュニケーションが始まる場にもなれば、わけもなく逃避したい気分をいつでも受け入れてもくれました。また、ステレオから流れる音楽で車内の雰囲気は変わり、まるで自分だけのこだわりが詰まった部屋のようでした。

そうしてトーラスとの時間を過ごしているうちに、荷物を大量に積み込んで早朝の第三京浜をゆっくり走っている時、いつの間にか慌ただしく働くようになっている自分に気付き、プロのスタイリストになれたんだなとしみじみ実感しました。そして、機材と撮影商品を積み込む毎日で時が過ぎて、走行距離はもうすぐいよいよ10万km。

その頃のトーラスは少し擦っても、汚れても気兼ねなく乗れる車になっていて、自分のクルマに求めるコンセプトとピッタリで最高でした。と同時に周りを見渡すとトーラスは古いアメ車の部類に入るようになり、自慢は少しボロいところ。ただ、ボディの色は手に入れた頃と変わらず、やはり青空のように素敵でした。徐々にパーツが脱落したり、表参道で走行中に煙を出したりと時間を重ねると避けられないトラブルも起きるようになりましたが、ずっと一緒に過ごしてきた相棒、手間のかかるクルマは愛おしくて……。

しかし、修理をすれば他のところが壊れる繰り返しとなり、クルマはもう末期状態でした。それでも手放したくなかった。スタイリストを始めたばかりの頃の不安や希望、色んな思い出が詰まっていたからです。仕事が忙しい日、デートの時、新しいアルバムを大音量で聴く時、現実逃避や旅行……。どんな時も常にそばにはトーラスがあり、自分の歴史が刻まれていました。基本、あまりクルマにお金を費やしたくないと考えていたこともありますが、修理費用の合計がいつの間にか新車の価格以上に。さすがに自分でもバカだなと思うことがあっても手放しませんでした。他の最新のクルマや装備には興味が湧かず、トーラスをなんとか走らせたくて。しかし、車内に煙が吹き出し、充満したのが最後の走りになりました。

文・写真=石川英治(スタイリスト)

(ENGINE2020年7・8月号)

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