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CAR 2020.8.4 

森口将之さん/初めてのフランス車体験 シトロエン2CVはシンプル過ぎて壊れるところがない

それぞれの人生で出会った「決定的なクルマ」について綴ったエッセイです。自動車ジャーナリストの森口将之さんが選んだのは、「シトロエン2CV」。人生を変えたクルマの物語をどうぞお楽しみください。

居場所を見つけた

この業界に入った当初は、イタリア車一直線だった森口さん。ところが、次に移った編集部は、アルファ・ロメオ好きだらけ。「それなら」と選んだのが2CVだった。

もっとも長く所有しているとなると、今も手もとにあるルノー・アヴァンタイムになるけれど、そこに行き着いたきっかけの1台として、シトロエン2CVは自分のカーライフの中で欠かせない。運転免許を取った頃からシトロエンは気になる存在だったけれど、大学卒業後まもなく潜り込んだ自動車雑誌の先輩たちから「ハイドロは絶対やめとけ」ときつく言われたので、アウトビアンキやアルファ・ロメオを乗り継いだ。この頃はイタリアン一直線だった。

でも当時所有していたジュリア・クーペの2000GTVの維持にお金が掛かったうえに、その頃入ったカー・マガジン編集部にはアルファ好きが複数いて目立たないと思ったので、シンプルすぎて壊れる場所がないと言われた2CVに乗り換えた。つまりこれが初のフランス車だった。

2L4気筒ツインカムから600ccフラット・ツインOHVへのスイッチなので、当初は遅さに戸惑った。2000GTVはクーラー付きだったので夏の暑さ、空冷ゆえの冬の寒さも痛感した。でもそれを覆してあまりあるものを得た。 それはクルマを操り、クルマと暮らす楽しさだった。29psを可能な限り生かすべく、坂の度合いやコーナーの曲率まで計算してギアを選び、スロットルを開け、ステアリングを切り、ブレーキを踏む。すべての道がサーキットのようだった。それでいて直進安定性と乗り心地は極上。だから時間を掛ければどこにでも行けた。クルマの魅力の原点と究極を一気に教えられた。

まもなく編集部内のフランス車の仕事は一手に引き受けることになり、イベントにも積極的に顔を出したことで、同じ国のクルマに乗る人たちとのつながりが、加速度的に増えていった。自分にとってはとても心地いい世界で、居場所が見つかったような感覚を抱くようになった。

12時間耐久レースに参戦

レースにも出た。自分にとって初のコンペティティブなシーンもまた、2CVはもたらしてくれた。ツインリンクもてぎでの12時間耐久レースのドライバーに混ぜてもらい、同じフランスの有名ファッションブランドのモノグラムをまとったチャールストンを駆った。といってもエンジンやサスペンションはノーマルなので、ラップタイムは他車より2分近く遅い。つまりコンペティションにはならない。というか、危険なぐらい遅い。もっとも大切なことは、他車に迷惑をかけないこと。ライン取りは二の次だ。コーナーでのひっくり返りそうなロールは慣れっこだったが、あまりに傾くのでガソリンがキャブレターに送られないという持病を抱えることになってもいた。

もっともそれ以外はトラブルフリーで、最下位をキープしながら順位を上げていく。真夏のレースでリタイアが多かったから。まさにウサギとカメだ。最後のピットインでは周囲のチームからも拍手をもらうようになり、2CVは無事12時間を走りきった。感想をひとことで表せば、レースは面白い。速さと楽しさは比例しないということを、速さを競う舞台から学んだ。

そして今。新型コロナウイルスによって、不要不急の外出を控える日々が続いている。一方でエッセンシャル・ワーカーの方々は、昼夜を問わず奮闘する日々を送っている。新たにクルマで通勤するようになった人も多いという。

そういう方々にとってもっとも必要なのは、仕事の道具とともに心地よく、快適に、移動できるようなクルマだろう。そして感染が収束した頃、単なる移動の足としてではなく、操る喜びをもたらしてくれるクルマであれば、疲れた心と体を癒してくれるのではないだろうか。

2CVは自分にとっては過去の1台であるけれど、このクルマにはこれからのカーライフを彩るヒントが盛り込まれている気がする。

文=森口将之(自動車ジャーナリスト)

・Twitter→@mobimori

・モビリティジャーナリスト森口将之のブログ「THINK MOBILITY」http://mobility.blog.jp/

(ENGINE2020年7・8月合併号)

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