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CULTURE 2020.6.19 

インテリアで観るアルモドバルの自伝的映画『ペイン・アンド・グローリー』

スペインの巨匠、ペドロ・アルモドバルの最新作は、老境を迎えた映画監督が自らの人生を振り返る自伝的物語。世界中のファンを唸らせる独特のセンスは、作品に登場するインテリアにも色濃く表れている。

鮮やかな色彩、特に「赤」の使い方が印象的なペドロ・アルモドバル監督。キッチン・パネルの色も赤。手前の白い椅子は、スペイン出身のデザイナー、パトリシア・ウルキオラ。薄っすら見える奥のダイニング・セットは、オランダ出身のピート・ヘイン・イークの手によるマニアックなもの。

『神経衰弱ぎりぎりの女たち』や『オール・アバウト・マイ・マザー』などの映画で知られる、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督。彼の自伝的要素が強い最新作、『ペイン・アンド・グローリー』のインテリアが実に興味深い。映画の中でも、訪れた人物が「美術館のよう」と口にするほど、主人公の部屋のアートや家具が充実しているのだ。部屋に飾られた絵は、グッゲンハイム美術館から作品の貸し出し依頼がある設定になっているほど。そのうえ主人公の衣装や靴まで含め、セットで使われているものの半分近くがアルモドバル監督の私物というから恐れ入る。

もちろん映画のセットだ。部屋から登場人物をプロファイリングできるヒントがいくつも隠されている。例えば、主人公が成功した人物であることはすぐに分かるだろう。と同時に主人公は孤独で、近年は心と体に痛みを抱えている。鮮やかでポップな色の背景と比べると、主人公は対照的に暗い。この痛みと経済的成功の背反する2つの要素が、映画タイトルの「ペイン・アンド・グローリー」となっている。

家具や照明も、古いものでは1935年にデザインされた1人掛けのアームチェア「ユトレヒト 」から、ミッドセンチュリーの名作、現在活躍が著しい若い世代のデザイナーのものまでバラエティー豊か。劇中劇では、有名なジオ・ポンティの「スーパーレジェーラ チェア」に、この監督を象徴する色でもある赤い特別なモデルを選ぶ凝りようである。〇〇風というのではなく、監督の関心が多岐にわたっているのが分かるインテリアだ。

もっとも映画はフィクションである。インテリアもアルモドバル監督の自宅そのものではない。だが、少々非現実的なストーリーと空間が、観る者を不思議な世界にいざなうのである。ちなみにインテリアを手掛けたのは、これまでアルモドバルと多くの仕事を共にしてきた撮影助監督のホセ・ルイス・アルカイネ。彼には多くを任せており、今回は必要なものがあるとその都度監督の自邸から持ってきたという。そんなエピソードを聞くと、本作だけでなく、これまでこのコンビが手がけてきた他の作品まで観たくなるに違いない。

奥の絵は、グッケンハイム美術館から声が掛かったという設定の、スペイン出身の画家ギジェルモ・ペレス・ビジャルタの作品。日本でも展覧会が開かれたことがある。幾何学的な意匠が特徴の一人掛け家のソファは、トーマス・リートフェルトが1935年にデザインした「ユトレヒト」。アルモドバル作品では、『抱擁のかけら』にも登場している。
右手前の照明「ピピストレロ」は、ミッドセンチュリーの名作。ガエ・アウレンティによるもので、このデザイナーの家具は他の映画作品にも登場している。左手にある赤と白の照明と白いシェルフは、21世紀でもっとも活躍しているデザイナー、ブルレック兄弟の初期のレアな作品。室内には、エットーレ・ソットサスのオブジェも多い。
本作の主人公である世界的映画監督、サルバドールを演じるのはアントニオ・バンデラス。まさにアルモドバルの分身ともいうべき役柄だ。

『ペイン・アンド・グローリー』は6月19 日(金)、TOHO シネマズ シャンテ、 Bunkamura ル・シネマ他全国ロードショー 113分 配給:キノフィルムズ ©El Deseo.

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)

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