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CAR 2020.5.18 

【試乗記】ボルボXC90 D5 Rデザインで、満天の星の下へ

箱根のホテルを起点にした試乗会だけでは物足らず 借り出したボルボXC90で向かったのは、ひと気がなく絶景が眺められる、素敵な場所だった。 

VOLVO XC90 D5 R-DESIGN
星空の名所、高嶺展望台。周囲に灯りがなく、ほぼ360度の素晴らしい視界が得られるが、ここも幅の狭い取り付け道路を延々と走らないと辿り着けない。この日は800㎞以上走ったが、約150㎞はそんな険しくも楽しい道のりだった。

こんなことになってしまうなら、あの時、何度も空を横切った流れ星に、新型コロナウイルスの終息を願っておくべきだった。

日が沈み、みるみるうちにめまぐるしく変わる空の色。次第に現れる満天の星と、ゆっくりと昇る大きな大きな月。延々と繰り返される素晴らしい自然の営みに触れたくて、あてどなくボルボを走らせたのが、はるか前のことだったように思える。

いつでも、どこにでも、気の向いた時に好きな場所に行ける。そんなありふれた日常だと思っていたことが、実はどれほど自由なことだったのか。緊急事態宣言が発令され、身動きが取れなくなった今、そのありがたさをつくづく感じている。

ネイチャー・ドライブ

星を見に出かけるきっかけになったのは、箱根のホテルで開催されたボルボXC90 D5 Rデザインの試乗会。実は肌寒い雨と霧で撮影場所を探すのに手間取り、短時間しか乗ることができなかったのである。

XC90に追加された2ℓディーゼルの上位ユニット、D5の汎用性の高さは、昨年の初夏、鳥海山から東京までロングドライブをしたおかげでよく知っている。

けれど、今回フェイスリフトと同時に登場した22インチ・タイヤを組み合わせたRデザインが、どれほど峠道でも楽しめるのか、もっと試してみたくなったのだ。

ひと気のない場所で誰にも会わず、美しい景色を眺めて珈琲を飲もう。それだけ考えて行き先は決めず、晴れているという理由で方角は西に定めた。時刻は朝7時。走り出して目に付いたのは、850㎞という航続可能距離。給油なしで、どこまでいけるか。

高速道路だけを走るなら、ある程度の予測は付く。でも、それじゃつまらない。どうせなら、走ったことのない、長く険しい道の方が面白いじゃないか。そこで目を付けたのが三遠南信自動車道だ。

新東名の浜松いなさJCTは呆れるほど通った場所だが、北に向かったことはない。最終的には長野・飯田方面への近道になるというが、まだ完成しているのは一部区間だけだ。

山間を縫って走る飯田線を横目に片側一車線の自動車専用道路を終点まで行くと、天竜川をせき止めた佐久間ダムが目の前だった。

少し引き返し、151号を走れば飯田へ抜けるのはたやすいが、悩むことなく、そのまま北上する。これが大正解。まさかこんなチャレンジングなルートに遭遇するとは思ってもみなかった。

手掘りなのか壁がでこぼこの暗く狭い隧道は、まるで遊園地のアトラクション。ダム湖畔に出ると、ときどき路肩に大きな落石も転がっている。一瞬たりとも気が抜けない。

鳥海山や箱根のような速度域が高く視界もよく、路面状況のいい峠道とは正反対。車体が大きく、常に対向車に気を配らなくてはならないXC90にとっては悪夢のような道である。

静岡と愛知をまたぐ佐久間ダム付近の、対面通行もままならない暗く狭いトンネルの続く道を抜けて北上し、418号線と153号線を経て蛇峠山へ。ここで珈琲を飲んで日が落ちるのを待つ。

ところが、そんな道がむしろ楽しいのだ。アップダウンが激しく、曲率の高いくねくねとした場所なら、1750回転から48.9kgmという豊かなトルクを絞り出すディーゼルと、緻密に制御する8段ATの組み合わせは無敵だと思った。意のままに動く、とはまさにこのこと。しかもパワーの出方がすごく洗練されている。

以前乗ったD5は、特にモードがダイナミックだと反応が過激な上にエンジン・サウンドも大きめで、ワイルドな印象だった。ところがRデザインは違う。スムーズかつ滑らかで、車内に響く音量も抑えられている。やや反応はスローだが正確に情報をフィードバックするステアリングの感触も、こういう場所ではありがたい。

22インチという山の中では似つかわしくない巨大なホイールを履くが、荒れた路面でも、あたりは柔らかく乗り心地は快適だ。脚の仕立てもしなやかでありながら、路面をしっかり掴んで放さない。これなら、いくらでも走っていける。

結局日が暮れるまで走り回り、矢作川の源流を辿って治部坂峠を抜け、蛇峠山の馬の背に辿り着いた。ここでは真っ白な日本アルプスを眺め、夕陽も満喫。高度は1500mを越えているから、昼間15℃以上あった気温はたちまち氷点下になったが、キンと冷える空気の中で飲む温かな珈琲は格別である。

日が落ちた後は、近くの高嶺展望台で満天の星と出会うこともできた。月が昇るまでの数時間だけ現れた、すべてが青く染まる静寂の世界は、息を呑む美しさだった。あらためて、人がいかにちっぽけな存在なのか思い知らされる。

月明かりで星の輝きがだんだん薄れるころになって、ようやく僕はXC90を東に向かって走らせはじめた。日が変わり、まもなく都内に入ろうかという頃、燃料切れが近いことを知らせるランプが付いた。積算計の数字は、837㎞だった。

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=山田真人

(ENGINE2020年6月号)

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