ENGINE WEB

CAR 2020.6.4 

【試乗記】ベントレー・フライング・スパーに乗る 優雅、だがスポーティ!

ベントレー最新の4ドア・サルーン、3代目フライング・スパーとともに 、穏やかな春の一日を過ごしてみた。 

BENTLEY FLIYNG SPUR

長らくベントレーの頂点として君臨してきたミュルザンヌが生産を終えた。その代わりとなるのは3世代目へと進化したフライング・スパーだ。

ベントレーのラインナップの中では高級SUVとして新市場を切り開くベンテイガや、洗練の度合いを一気に高めたラグジュアリー・スポーツカーのコンチネンタルGTに目が行きがちだが、これぞ彼らの本流である。そのせいか広報車両は人気もので、わずか1日しか借りられず、乗ることができるのは撮影をのぞけばわずか数時間だった。

そこで僕はとにかくフライング・スパーに触れることに集中し、時間の許す限り走り続けた。いやむしろ、走りたくて仕方なかった。威風堂々とした独自の世界を確立しながら、時としてコンチネンタルGTをしのぐほどの一体感が得られる、見事なクルマだと思ったからだ。

インストゥルメント・パネルはコンチネンタルGTと似ているが、中央コンソールの時計の周囲の羽が開いたような造形はフライング・スパー独自のもの。試乗車は「1stエディション」でポップアップするボンネット先端の発光式マスコットやサンルーフのほか、Cピラーなどに英国旗のエンブレムが付く(OP価格673万5769円)。中央パネルは3連メーターのほか、回転してナビや何もないウッド・パネルを表示可能だ。

フォーマルかつエレガント

春の陽の下のフライング・スパーは、発表会場で見た時よりもずっと端正に見えた。特にグリルはミュルザンヌのように横に大きくなり、縦の桟が目立つものとなったが、ライトとグリルの配置と、余白のさじ加減が絶妙。

しっかりとフォーマルなミュルザンヌと、ややカジュアルなコンチネンタルGTの、ちょうど中間の印象だ。新しい時代のベントレーのフォーマル・カーがいかなるものなのか。フライング・スパーは見事に顔で表現している。

車体サイズは先代フライング・スパーに比べ、全長が+21㎜の5316㎜、全幅が+2㎜の1978㎜、全高がマイナス4㎜の1484㎜とさほど変化はないが、数値以上に引き締まって見える。

柔らかな前後フェンダーの嶺を走る強いキャラクターラインが効いているな、とは思ったが、何よりもプロポーションが先代と違う。その理由はプラットフォームだ。

先行するコンチネンタルGT同様、ポルシェ開発のMSBを採用し、ホイールベースは+129㎜の3194㎜と一気に拡大。フロント・オーバーハングをぎゅっと縮め、前の車軸を130㎜前方に移動。

高級サルーンであることを強調する、のびやかでエレガントなシルエットに生まれ変わった。その一方で、車両重量は先代比でマイナス38㎏と軽量化も図られている。

フライング・スパーに乗り込んで街中や高速道路を淡々と走っている時の心の有り様は、簡単には言い表せない。視界に入るすべてのもの、身体に触れるすべてのものは、気の遠くなるような長い時間と、熟練の職人の技と、最新技術の粋を結集したものだ。

それらが合わさると、何をどう操作しても、ひとの生理を逆なでするようなところがなくなってしまうのである。

少し軽めだがとにかく滑らかなステアリングの感触。フラットでどこまでも穏やかな乗り心地。そして何より、望めば望むだけ力は得られる一方で、野蛮さがまったく伝わってこないエンジンがいい。

635psと91.8kgmを発揮する6ℓW12ツイン・ターボは、ステアリング・パドルで上まで引っ張っていくと、12気筒特有のきめ細かなフゥワーッというサウンドがたまらなく心地良い。

この音とともに湧き出る力は、8段のデュアルクラッチ式自動MTとアクティブ・オンデマンド式4WDを介して4輪を駆動するが、トルクの配分は基本、後輪のみで、必要に応じて前輪も駆動する。

パワートレインの仕立てもシャシー同様、基本はコンチネンタルGTと同じはずだが、フライング・スパーの方がより穏やかで優雅で、すべての要素が精神的な落ち着きやゆとりへと繋がっているように思えた。

荷室容量は420ℓ。
6ℓW12のスペックはほぼコンチネンタルGTと共通で気筒休止機構も備わる。0-100km/h加速は3.8秒(GTは3.7秒)。

鼻先の重さを意識させない

ところが驚いたことに、箱根や伊豆の峠道で速度を上げていくと、大きく重いことは常に意識する必要はあるけれど、巨大な4ドア・サルーンとは思えないくらい意のままに動く。

スピードが高くなればなるほど、クルマが小さくなっていくような感覚すらある。記憶の中のコンチネンタルGTと同じかそれ以上に、フライング・スパーは鼻先の重さを意識することがない。いやはや舌を巻く、とはまさにこのことだ。

内部構造の多くを共有する2ドア・クーペと4ドア・サルーンが、同じくらいスポーティ、なんてことは普通はありえない。新しいプラットフォームの恩恵でオーバーハングの重さが減り、コーナリング時の前輪に対する動的な負担は一気に減っているが、それはコンチネンタルGTも同じだ。

フライング・スパーの前輪への駆動配分は走行モードが通常の「ベントレー」または「コンフォート」で最大53%、「スポーツ」が31%。コンチネンタルGTはそれぞれ38%と17%だったから、スポーティとはいえフライング・スパーの方がより安定志向であることは間違いない。

しかしフライング・スパーにはコンチネンタルGTにはない、ベントレー初となる4WSがある。同位相で1.5度、逆位相で4.1度まで動作し、高速巡航時の安定性と取り回しのしやすさを両立。最小回転半径は先代の6.5mから5.25mになっている。

これが4輪の駆動制御プログラムと協調制御され進化した結果、見事なまでに自然な感覚のハンドリングをもたらしているのだ。

そしてフライング・スパーには、心の底から寛げる快適至極なリア・シートと、広いラゲッジ・スペースという、コンチネンタルGTでは決して得られないものまでが、ある。

フォルクスワーゲン・アウディ・グループ最先端の技術を集結させ、かつそれをベントレーが遥かなる高みにまで洗練させて生まれた新しいフライング・スパー。それはラグジュアリーな4ドア・サルーンでありながら、驚くほどスポーティな、現代のベントレーの象徴としてふさわしいドライバーズ・カーなのである。

■ベントレー・フライング・スパー1stエディション

駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 5316×1978×1484㎜
ホイールベース 3194㎜
車両重量 2540㎏
エンジン形式 水冷W型12気筒DOHCツイン・ターボ
総排気量 5950cc
最高出力 635ps/5000-6000rpm
最大トルク 91.8kgm/1350-4500rpm
変速機 8段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エア
サスペンション(後) マルチリンク/エア
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前) 275/35ZR22
タイヤ(後) 315/30ZR22
車両本体価格(OP込・10%税込) 2667万4000円(3483万3962円)

文=上田純一郎 写真=神村 聖

(ENGINE2020年6月号)

総合アクセスランキング

最新の人気記事

CAR トップへ