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PLAYING 2020.5.5 

【ENGINE・ハウス】マゼラーティが縁 シトロエンSMとランチア・イプシロン、マゼラーティ・ギブリがある前橋の家

施主と建築家、お互いの愛車がマゼラーティだったことでできた家。そこはクルマ趣味と家族の両方を大事にできる家だった。

地域特性を考慮した家

この写真は、群馬県前橋市にあるKさんのお宅の北側だ。ガレージの木製の扉を閉めれば、窓など開口部が無い閉鎖的な家になる。このデザインは故あってのもの。北関東のこの地は、冬になるとからっ風が厳しいのだ。そして群馬県は一世帯当たりのクルマ保有台数が最も多い県。この家は、屋内の車庫に縦列で2台が駐車できる他、クルマでの来客のことも考え、右手に3台分の駐車スペースが確保されている。

しかも停まっているのがマゼラーティ製のエンジンを積むシトロエンSM(1973年型)にランチア・イプシロン(2008年型)。他にも取材当日は入院していたマゼラーティ・ギブリⅠ(1967年型)と、普段は奥様が乗るアウディA6オールロードクアトロがある4台持ちのお宅だ。所有しているクルマから分る通り、相当なクルマ好きである。Kさんは、これまでアルファ・ロメオG T V を皮切りに、マゼラーティ・ギブリカップ、マゼラーティ・クアトロポルテV8(MT)、マゼラーティ3200GTアセットコルサなど、何台ものイタリア車に乗ってきた。現在はマセラティクラブオブジャパンのメンバーでもある。

もっともKさんが好きなのはクルマだけではない。長い昼休みがとれた時は、モーターサイクルで近隣のワインディングロードを駆け上り、時にはロードバイクでヒルクライムを楽しんでいるのだから。タイヤがついた乗り物はあらかた好き、と言った方が正確かもしれない。

クラブイベント時のマゼラーティⅠ の写真が飾られていた。
このガレージには、モトグッチなどのモーターサイクルや、チネリ、グラファイトデザインのロードバイクなども納まっている。

そんなKさんの最初のクルマはFFのカローラレビン(1989年型)。続いて乗ったのが、ユーノス・ロードスターだった。この2台はエンジン以外の部分は随分と改造し、どこをいじるとクルマの動きがどのように変わるか、しっかり「勉強した」という。そこから得られた結論は、クルマは「バランスが大事」ということ。

「では、『マゼラーティのバランスが良いか』、と聞かれれば疑問が無くはありません。ですが、エレガントで落ち着いていますし、実際に乗り比べ、一番しっくりきたんです」

誤解しないで頂きたいのは、乗り物好きである以外、Kさんは「地方都市に暮らす普通の市民」であること。毎日のように仕事に出かけ、小さな3人の子供がいて、限られたお金でクルマのある生活を楽しんでいるのだ。修理代が負担になり、手放したクルマだってある。だから、「主治医と患者の関係という訳ではないですが、しっかりした信頼関係のできたお店にクルマをお願いしています」と話す。何でも相談できる、長い関係は重要だ。

北側の外観に比べ、窓が多い南側。

家を建てる際、K+Sアーキテクツの鹿嶌信哉(かしま・のぶや)さんと佐藤文さんに依頼したのも、カーショップを選ぶのと同じで、信頼関係からだろう。鹿嶌さんは、2003年型の白いマゼラーティ・クアトロポルテに乗り続けている建築家。Kさんがこの二人に出会ったのは、12年前のマセラティクラブのイベントだ。前橋出身の佐藤さんが、群馬ナンバーのギブリⅠのKさんに声を掛けて親しくなった。以来、様々なイベントを通 して家族ぐるみの付き合いを続けている。

「なにより僕の家族のことを知ってもらっているのが大きいですね。その上お互いのテイストも分っているので安心感がありました。間違ってもビックリするような提案をすることはないと」

Kさんは二人に設計を依頼した理由をこう話す。K+Sアーキテクツは、これまで前橋で何軒も家を建ててきた。お施主さんに引き渡す前、関係者などに家を公開する「オープンハウス」に足を運んだ経験もある。どんな家を設計するかKさんは分っていたのだ。鹿嶌さんたちのアドバイスもあり、土地はいくつかの候補の中から、高台にある緑の公園を望む場所に決まった。ここなら前に建物が建つ心配がない。この家が「終の棲家になれば」と思う家主にとって最高の場所だろう。

壁一面をガラス張りにしたリビングから、縦列駐車した2台のクルマが見える構造。屋内駐車の入口と反対側の壁も一面ガラス張りとし、その向こうを庭とした。明るく緑の見える車庫空間の一角は、訪れてきた友人たちと寛ぐことができるコーナーも。

リビングからクルマを見たい

Kさんが新居に希望したのは、4台のクルマの他に、2台のモーターサイクルと4台のロードバイクを収納できること。そして何より、リビングからクルマが眺められることだ。一方K夫人は、熱烈なクルマ好きではない。そこでリビングを2階にする案も検討されたが、夫人が希望したのは庭に面した1階のリビング。これらの条件が出そろったところで、あらかたのレイアウトが決まったという。

こうして出来上がったのが、1階のリビングを中心とした家だ。閉鎖的な北側とは反対に、庭に面した南側にはいくつもの窓が設けられた。ソファからは、ガラス越しにガレージが見えるが、キッチンからは見えず、目の前に広がっているのは光あふれる庭とその向こうに広がる公園だ。そして終の棲家になるには、居心地がいいのはもちろん。デザイン的に奇抜であってはいけないし、野暮であってもいけない。すぐに飽きるような意匠も避けるべきだ。その点、誤解を恐れずに言い切れば、K+Sアーキテクツの魅力のひとつが「バランスのとれた」建築であること。緑の公園が見える家は、Kさん夫婦の望んだ通りの家となったのではなかろうか。

リビング上の吹き抜けの一角にはKさんの書斎コーナーが。ここからは子供たちの様子が感じられる。
リビングと繋がったキッチン前の窓からは、庭と公園が見える。
ふんだんに木が使われ、温かで飽きのこないインテリアだ。

興味深いのはお子さんたちの反応だ。プラグを替えるなど、屋内のガレージで作業をしている父親を見つけると、「パパ!」とリビングからガラス越しに手を振ってくるというのだ。「大人になっても、こうした父親の姿を記憶しくれているのではないでしょうか」

嬉しい話ではないか。ガレージは自分の趣味のために作ったかもしれないが、家は家族のためのものなのだ。そんなKさんは、「現在所有しているクルマの中で、最後まで持っているのはイプシロンかもしれません。多くの方は『足グルマ』と思うかもしれませんが、僕は『趣味のクルマ』と思っています。ランチアは歴史のあるブランドで、運転して楽しく、奥深いところがありますから。しかも家族全員の5人で乗れるんです。いつか皆で旅に出られたらと思ってるんです」

やはりクルマのある生活は素晴らしい。

 

 

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2016年3月号)

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