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CAR 2020.5.10 

【ENGINE・ハウス】ちょっと古いクルマとウルトラ・モダンな山口の近未来ハウス ガラスとコンクリートの日本家屋

白いプレートとコンクリートの壁。まるで巨大なオブジェのような家を山口県に訪ねた。それは、竣工間もない、住み始めて半年ほどのニュー・ハウスだった。

時間が空くと、何か魅力的な出物がないかと、ついついネットで中古車情報を検索してしまう。そういう方も少なくないだろう。この家の主である歯科医の藤原祐介さん(37)も、そんなクルマ好きの一人だ。これまで所有したクルマは、シトロエンAXから始まり、MGB、BMW635csi、アルファ・スパイダー・ツインスパーク、ローバー・ミニ……と数知れず。どれも少し古いクルマばかりだ。そうしたクルマにしか興味がないという。だからいつも買うのは中古車。結婚前まで所有するのは1台で、短期間楽しんで、関心のある次のクルマに。ボディカラーなどは気にせず、程度のいいものを探す。そんなカーライフを送ってきた。

コンクリート構造だが、形状を工夫し、一部を薄くしたうえに白く着色しているので、軽やかに見える。

中学生から旧車の魅力に

藤原さんが少し古いクルマに興味を持つようになったのは中学生の頃。よく通っていたプラモデル屋のご主人が、古いクルマ好きで感化された。また実家の近くにあった、古くて珍しいクルマを扱う中古車屋の存在も影響したようだ。

現在の愛車は、ジャガーXJR4・0スーパーチャージドV8(1999年型)とメルセデス・ベンツW124のワゴン(1995年型)の2台。走行距離が26万㎞になるW124は普段の足として利用。ドライブを楽しむジャガーは、2台持ちのうえ所有して1年未満にもかかわらず6000㎞は乗ったという。住んでいる山口県周南市は、周辺の道路が整備されているうえに空いているので、ドライブを楽しむにはきわめて恵まれた環境なのだ。

そんな少し古いクルマに対して、去年完成したばかりの藤原さんのお宅は、コンクリートとガラスの近未来的な住宅。写真だと、想像するような位置に窓もなければ、玄関のありかもすぐには分からない。レトロなデザインのジャガーと、格好のコントラストだ。

この家を設計したのは、同じ山口県の岩国市を拠点に活動している、窪田建築アトリエの窪田勝文さん。海外で作品集が出版されるなど国際的に評価が高いのは、開け放たれた大きい開口部、塀に囲われたミニマルな庭、モノの少ない室内、といった日本家屋の要素を、現代の素材であるガラスとコンクリートで作り上げているからだろう。そして何よりかなりのクルマ好きだ。藤原邸には、そうした窪田さんのクルマに対する思いが随所に表れている。

洗車のためにお湯が出るのは、そのいい例だろう。藤原さんは、「クルマのボディの色が濃いと、磨き甲斐がある」というタイプ。ガレージ前のスペースで自ら洗車を行う。そんな家主にとって、雪で汚れたクルマを温水で洗える設備は嬉しいはずだ。

床のタイルも壁の色合いも連続しているので、同じ部屋のような感覚が。庭に面した窓は全開するので、抜群の解放感がある。ソファなど家具類は全て建築家が選んだ。
日本庭園の伝統である水琴窟の原理を利用し、中庭の池を流れる水の音がよく響くように設計されている。

SF映画のような室内

室内は、外から想像するよりもさらにモダンだ。撮影に配慮して、普段は床にある赤ちゃん用のマットや玩具は片付けられているが、それにしても生活を感じない部屋である。単にモノが無いからだけではない。エアコンも暖房機器も見当たらなければ、天井に照明用の器具が一つもないのだ。SFに登場する宇宙船のような空間である。そしてガラスの向こうにクルマとバイクが……。

こうしたスタイルにたどり着いたのは、窪田さんが中学生の頃から雑誌「カースタイリング」を貪り読み、カーデザイナーを志していた事と大きく関係している。そのデザイン哲学は独特だ。

巨大なガラス1枚隔てた向こうにクルマが見えるリビングダイニング。バイクはBMWR1100S。藤原さんは一時期バイク・レースに夢中になっていたことも。

クルマの発想を住宅に

「カーデザインは、よく考えられていると思いませんか。工場で作られる大量生産品にもかかわらず、ディテールまでよく煮詰められています。空調などは、中の機能が見えないように隠されていますよね。その発想を住宅に持ち込んだんです。エアコンや換気扇は隠し、床暖房と間接照明を採用して機能が見えないようにしています」

藤原さんは、窪田建築のファンである職場の同僚の紹介で窪田さんと出会った。以来、様々な機会を通して、窪田さんの建築に接してきた。なので、どのようなものができるかは、よく分かっている。「部屋からクルマが見えるようにして欲しい、とお願いした以外はお任せでした」

こうして完成した新居は、希望通り、リビングからクルマの姿が見える家。床の白いタイルが、クルマのあるスペースまで続いているので、車庫というより、「リビングの一部にクルマが置いてある感じ」だ。部屋はソファ以外にほとんど物が置いていないので、愛車の存在がよりダイレクトに感じられることだろう。

リビングのタイルは、車庫と反対側の外部の中庭まで続いている。しかも窓は全開できる構造だ。それゆえ面積以上に広がりを感じるものである。そして中庭は、高い塀に囲まれた池があるだけのシンプルな空間。住宅街の中でありながら、太陽や風といった自然が感じられる、ちょっと贅沢なスペースでもある。ここでゆったりと過ごすと、なんともいえない満ち足りた気持ちになる、と藤原さんは話す。

アイランド型のミニマルなキッチンは、キッチンハウス社製の「窪田勝文モデル」。販売されている。IHコンロの奥にレンジフードがせり上がってくる構造で、しっかり排気も行える
天井は、間接照明を採用した、穴一つないクリーンな造形。十分な明るさがあり、本も読める。
浴室も天窓から外光が入るうえに、外気を感じられる構造なので、露天風呂のような趣がある。

天ぷらにも対応するキッチン

それでも多くの人は気になるだろう。普通にこの家で暮らしていけるのかと。窓掃除だけでも大変そうだ。「掃除して一部だけキレイにすると、そうでない所との差が分かってしまいます。ところが、大きな面積のガラスを、全く掃除しないで放置しておいても、案外気にならないものですよ」と、何もしないのが窪田流。竣工以来一度も窓掃除をしたことがないというが、汚れは全く気が付かなかった。

シンプルな家だけに、普段の部屋の掃除も簡単で、食事に揚げ物も頻繁に登場するとか。見かけから想像するのと大違いで、普通の感覚で住めるようだ。ただ、予想外のことがあったという。「家を建てたと聞いて、ふらっとやってきた友人がなかなか帰らないんです。きっと居心地がいいのでしょう」

なるほど。言われてみて納得するところが多い。このウルトラモダンな家に暮らして、少し古いクルマ好きの藤原さんは、今後どんなクルマを選んでいくのだろう。これからが気になるところだ。

■建築家:窪田勝文 1957年山口県生まれ・日本大学卒業。1988年に窪田建築アトリエを設立。生まれ故郷の岩国を拠点に住宅を中心に設計。権威ある海外の賞を数々受賞するなど、国際的に評価が高い。手がけた建築が、ホンダジェイドのCMバックに使われたことも。大のクルマ好きで、それが作品にも投影されている模様。情報公開した記憶がないのに、「窪田さん、ポルシェ乗っていますよね」と、ポルシェオーナーから住宅設計の依頼が来たこともあった。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2017年3月号)

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