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PLAYING 2020.5.30 

【ENGINE・ハウス】黄色いカングーが似合うトンネルハウス 幸せのドライブスルー

見てびっくり。なんとも摩訶不思議なトンネルのある家!? いったいどんな構造になっているのか。さっそく覗いてみよう。 

家の真ん中にあるトンネルを抜けて、向こうから黄色いルノー・カングーがやってくるこのお宅。コマーシャル撮影に使えそうな、インパクトのある形だ。こうした個性ある構造になったのには、もちろん深い訳がある。

八王子の会社員、伊井克さん(42)たちの家は二世帯住宅。ただし普通のそれとは大きく違う。まず何よりトンネルの上部中央に25㎝ほどの隙間があるので、二世帯と言いつつ2つの独立した住宅である。右には伊井さん家族が、そして左には伊井さんの義理のお母様が住んでいる。屋根は写真の左手から右に行くに従って高くなっており、右側の建物は2階建て、左が平屋の構造だ。

そもそもここは、奥様の生まれ育った古いお屋敷が建っていた場所。広い敷地で、北側と南側は道路に接している。入り口は写真手前の南側で、大きな幹線道路に面した北側には出入り口は存在しなかった。問題は家の建つ北側が小高くなっていて、玄関に辿り着くのに階段を数段上らないといけないこと。高齢のお母様には少々負担となっていた。そんな背景から、二世帯住宅への建て替えが始まった。

トンネルの形状は、よく考えられた複雑な構造のもの。道路は平面ではなく、お母様の玄関前がスロープの頂点となっている。クルマの前後輪は少し低い位置に来るので、クルマの床面と乗降するスロープの頂点はより近いものに。高齢のお母様の負担を少しでも減らそうとする配慮である。2軒の玄関は少しずらしたものの、お互いの気配が分かる位置。

敷地内に道路を造る発想

伊井さんたちはハウス・メーカーを数社訪れたが、出てきた提案はオーソドックスなものばかり。たいがい1つの建物に入り口が2つか、入り口が1つで中に入ると2つの世帯に分かれた案だった。これは伊井さん家族の求めていた住まい方ではない。そこで声をかけたのがナフ・アーキテクト&デザインを主宰する中佐昭夫さんだった。偶然にも伊井さんたちのご近所さんの建築家で、共通の友人からの紹介である。

中佐さんの提案は斬新だった。なんと南北にある道を結ぶ道路を敷地内に新たに造り、その道を挟んで二つの家を建てる案だったのだ。しかも双方の家の屋根が伸びてトンネルを形成。その軒下に玄関を設け、クルマでのお母様の送迎時にも、玄関先にぴたりと横付けできるうえ、切り返し無しにそのまま反対側から抜けられるアイデアである。トンネルの上部をあえて繋げなかったのは、地震など将来に起こりうる幾つものことがらを想定してのこと。この程度の間隔であれば、雨が降っても傘なしの乗降で人が濡れることはない。

カリフォルニアならともかく、日本の住宅にドライブスルーの発想を持ち込んだ建築家の中佐さん。もちろんクルマ好きだ。小誌の2013年7月号で、愛車のアルファ・ロメオ75ツインスパーク(1991年型)と共に自宅が紹介された経歴を持っている。特に古いイタリア・フランス系のクルマが好みだとか。そんな中佐さんの伊井さん家族への提案は、「現代のイタリア・フランス車のような家を造りましょう」だったとか。そう、伊井さん夫婦もクルマ好きなのである。

遅いからカワイイ愛車

伊井さん家族がルノー・カングー(2013年型)に乗り出したのは、まだこの家の設計段階のこと。奥様の強い意向で決まったという。

「スライドドアのあるクルマを探していました。ワゴンからミニバンまで随分と候補があった中で、試乗して一番運転が楽しかったので選びました。これまで乗ってきたドイツ車などと比べると、アクセルを踏んでも驚くほど遅いんです。でも、できの悪い子ほどカワイイといいますが、そこが良くて。ホットするんです。小回りも効いて、本当に便利。ずっと手放せないように思います」

2年前から伊井さんは、BMW・X5(2008年型)との2台持ちとなった。趣味のサーフィンのためである。これまでボルボ940やメルセデス・ベンツEクラス、フォルクスワーゲン・ゴルフ・ヴァリアントなどの、サーフボードを積めるワゴンを乗り継いできた。八王子から湘南までの50キロの道のりも、今は圏央道が開通したのでアクセスがよい。8歳の息子さんも連れて、家族3人でよく出かけるという。

「それぞれのクルマを運転している時の心のありかたは全く違いますね。BMWだとちょっと強気の運転をしてしまいますが、カングーだとのんびりした気持ちになるんです」と伊井さんが話せば、

「だからサーフィンに行くときは、どちらのクルマで行くのか論争になるんですよ。結局カングーで出かけることが多いかもしれません」と奥さんが続ける。伊井さん一家が、ほのぼのとしたカーライフを楽しんでいるのが印象に残った。

1階リビングの吹き抜けを中心に構成されているAさんのお宅。光があふれ開放的だ。
2階の浴室前に中庭を設けてあるので、冬の寒い時期も風呂場でお湯を使ってウエットスーツを洗え、すぐに干せるのが便利と伊井さん。
トンネルの構造は建物の内側にも表れており、リビングの吹き抜け上部はRとなっている。ここに天窓からの光が作る模様が美しい。
キッチンのシェルフは、奥様の集めたビンテージの北欧食器が見えるようにデザインされている。

吹き抜けと北欧家具がポイント

さて、伊井さんの家は構造もユニークだが、内部空間も凝ったものである。建築家の中佐さんは、伊井さん一家の希望や好みを聞き出したうえで提案を行っていった。こうして出来上がったのが、幹線道路に面した北側には窓を設けず、家の中央にあるリビングを吹き抜けとした間取りである。2階のそれぞれの個室も、吹き抜け側にも窓を配したうえ、天窓や中庭も設けたので、リビングは光が入って明るく風も抜けていく。1階の奥のキッチンからちょっと顔を出せば、2階の子供部屋の様子を窺い知ることができるのもいい。そして何より、大通り沿いに建つにもかかわらず静かだ。

インテリアではリビングのソファが効いている。奥様が選んだデンマークのビンテージ家具で、布地を新たに張り替えたものだ。カーテンや壁紙を含め青系の色は伊井さんの好み。北欧のビンテージ家具と食器が好きな奥様は、雑誌のページを切り抜くなどして、事前に自分の好みを建築家に伝えていた。結果、壁の白と、家具と建具の茶色、ファブリックのブルーのコントラストが美しい部屋が完成したのである。

ピアノ教室もドライブスルー

伊井さんはこの家ができて、通勤時間は伸びたものの、帰ってくると落ち着くと満足気だ。そして音大卒の奥さんは、念願だったピアノ教室を始めた。生徒たちの送迎は土地柄クルマが多いので、事故が無いよう家の中の道路は一方通行とした。ドライブスルーのピアノ教室である。家の真ん中にクルマの通れるトンネルのある伊井さんたちのお宅。この個性的な形だからこそ、生活がより豊かになったのは間違いないだろう。

■建築家:ナフ・アーキテクト&デザイン 広島大学時代に出会った中佐昭夫(1971年広島県生まれ・早稲田大学大学院修了)と中薗哲也(1972年宮崎県生まれ)によって2000年に設立。1つの事務所だが中佐は東京を、中薗は広島を拠点に、シナジー効果を発揮しながら活動する。中佐の自邸は、少しだけ離れて建つ2つの家に1つの家族が住むコンセプトがユニークで、多くのメディアに取り上げられた。また中佐は古いクルマ好きで、現在は白のアルファ・ロメオ75ツインスパークを所有する。 

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2017年3月号)

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