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CAR 2020.5.21 

【試乗記】アストン・マーティン・ヴァンテージに加わった7段MT仕様 ラグジュアリーなスーパー・スポーツカー

飛び出たチン・スポイラーにそそり立つリア・ウイング。そんな過激なエアロ・パーツをまとったレーシーな姿からは想像できないほど、アストン・マーティン・ヴァンテージの身のこなしは進化を遂げていた。

上田 アストン・マーティンのヴァンテージは従来はクーペのみでしたが、先日クラシカルなグリルのロードスターが追加されました。"ベーン・グリル"という名で、クーペでも選択できます。で、従来のグリルはといえば"シャーク・グリル"というそうです。サメ顔ってことですね。

齋藤 いや、でも今回の試乗車はサメどころかもっと過激だった。

上田 顎のない深海魚みたいですよね。

齋藤 オプションのドライ・カーボンのすごく張り出しが大きなチン・スポイラーは付いてるし、顔の左右にカナードがあるし、後ろには巨大なウイングがそびえ立っていたし。 

上田 部品代は約300万円だとか。

齋藤 だから、ポルシェ911でいうならGT2か、GT3 RSだなって思いながら乗ったんだよ。

荒井 ところが、見た目からは想像できないくらいジェントルなクルマだった。

上田 以前村上さんや齋藤さんと一緒にヴァンテージに乗ったのはフルモデルチェンジ直後でしたけど、今回の試乗車はさらに穏やかで扱いやすかった。なんだか1つ上のクラスのDB11みたいな感じがしました。

村上 昔のアストン・マーティンはタキシードを着たタフガイみたいで、見た目はすごくエレガントなかっこいいスポーツカーだけど、乗ってみるとけっこう野蛮な感じのクルマだった。でもそれが裏返しになったのがヴァンテージ。見た目は野蛮だけど、中身は洗練されている。AMG製のエンジンになって、すごくよくしつけられた激しさになったと思ったけど、さらに洗練されている。

齋藤 完全にコントロールされている感じだよね。

村上 で、なぜか今回マニュアル・トランスミッションが復活している。

上田 先代のヴァンテージにも6段MTはありましたから復活ともいえますが、少し前にヴァンテージAMRっていう限定モデルが出て、その時にこの7段MTが追加されました。そして今回、ロードスターの登場に合わせてクーペにだけ7段MTが選択できるようになったんです。8段ATよりも143万9000円安価な1913万円となります。

凸型にシフト・ボタンを配置する8段AT仕様に比べ、ずっとコンベンショナルな見た目となる7段MT仕様のインテリア。細身だがフットレストはあり、ドライバーとシート、ペダル、シフト・ノブの相互関係はほぼ完璧。クラッチは軽く、ゲートはやや曖昧だがシフト・フィールそのものは良好。
パワーユニットはAT仕様と共通で、スペックも変更はない。

村上 先代はシフト・ノブの握りが大きい上に形がカクカクしていたり変わったMTだったけど、実は新しいMTもけっこう変わっている。普通ATからMTになるとスポーティさが増すイメージだけど、この7段MTはちょっと違う。もっとゆったり優雅に運転するのが向いていると思った。たぶんATの方が、どんどん変速をしたい飛ばす人向け。MTは選んだギアで可能な限り幅広い速度域を使いたい感じ。

上田 パターンは左手前が1速の、最近珍しいドッグレッグ式。昔のアストン・マーティンもそうでしたが。

村上 4段や5段の時代はいくらでもあったよ。でも、これはちょっと扱いにくいな、と思ったのは、ニュートラルのセンターの位置が4速と5速の間にあって……。

上田 2速→3速の列がうまくつかめないんですよね。

荒井 発進直後に、1速から4速に入っちゃう。

村上 そうそう、よく分かる。あれ?って思うんだ。

齋藤 もう少し微調整が必要かな。リターン・スプリングの強さだとか、左上のリバースと左下の1速のところにもうちょっと抵抗を設けるとか。基本1速は発進ギア。リバースもいったん止まってからしか入れないでしょ。

上田 急いで入れるのは映画の中の007くらいでしょ(笑)。

齋藤 一番左側の列は普段使わないものと考えればいい。

村上 ゲートの間隔も近いからよけいにシフト・ミスしやすいよね。2速発進にすればいい。

齋藤 ただ、言っておきたいけど、トランスアクスルのマニュアル・ギアボックスとしては非常によくできている。クラッチの扱いも楽で、発進と停止を繰り返してもぜんぜん苦にならない。

荒井 あと、乗り心地もすごくいい。

齋藤 歩き心地がいいというか、とてもショックの少ない上等な靴を履いているような感じは、今回一緒に乗ったフェラーリやポルシェ、マセラティと比べても、これが一番だった。

村上 それなのにこの見た目だからね。落差が大きいというか、違和感があまりにも大きい。そういうところがエキセントリックで、いかにもイギリス車らしいよ。

ASTON MARTIN VANTAGE

テイスト・リッチ

齋藤 ラグジュアリーで、すごくいいものに乗っている感じがあるのと同時に、やっぱりこれはスーパー・スポーツカーだと思った。クルマが小さくて、フロントにエンジンがあるクルマとしてはホイールベースも短くて、前後の重量バランスが良くて、いろんな運動の中心が車体のまん中にある感じ。これは普通のクルマではあり得ない。

村上 独特の味だよね。アストン・マーティンの味って、けっこう言い表すのが難しいんだよ。例えば911だったら、後輪のトラクションが、まるで巨人の手で後ろから押されているみたいな感じだとか、分かりやすいんだけど。

齋藤 今のフラッグシップのDBSスーパーレッジェーラなんか、はるかにレーシーだしね。

荒井 モデルごとに印象が違う。

上田 いや、やっと統一感が出てきた感じもしますよ。今のアストン・マーティンのハンドリング・マイスターは元ロータスの人なんですが、関わったのはDB11ヴォランテやヴァンテージからなんです。分かりづらかったアストンの味つけが、ようやくまとまろうとしている。

村上 確かにラグジュアリーなスポーツカーの走りっていうものを出していこうっていう感じはする。

齋藤 テイスト・グッド、もっというならテイスト・リッチというのかな。すごく目が詰まった、まろやかでスムーズで、しっとりした感じっていうのは、DB11とヴァンテージに共通するものがある。

上田 DBSスーパーレッジェーラはちょっと別物だと。

村上 だからあえてそういうものも作っているということだよね。僕はフルモデルチェンジ後のヴァンテージのレーシーな見た目はちょっと違和感があった。アストン・マーティンのポートフォリオとして、DB11を今までの路線を継承するエレガントなものにし、ヴァンテージをより過激なものにするのは分からないでもない。でも、ちょっと違うなと思った人も多かった。

上田 だから反省が入ったのかも。

齋藤 たいてい作っている本人たちは、どんなものを求められているか、分からないものなんだよ。

上田 ただ、今後アストン・マーティンはヴァンキッシュやヴァルハラといったミドシップのハイパー・スポーツカーを出していくとアナウンスしていますから、ヴァンテージは路線変更をしたのかもしれない。

齋藤 ハードコアでレーシーなのはハイパー・スポーツ系が担当すると。

上田 だからヴァンテージはクラシカルな顔も選べるようにして、DB11とそろえてきた。

村上 僕の心の中のアストン・マーティンはラピードだったり、先代のヴァンテージだったり、新しいヴァンテージ・ロードスターのような、まさにあの顔なんだよね。だからベーン・グリルの登場で、ついに見た目と中身が一致した感じがするよ。

■アストン・マーティン・ヴァンテージ(MT)

駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4465×1942×1273㎜
ホイールベース 2704㎜
車両重量(前軸重量:後軸重量) 1650㎏(850㎏:800㎏)
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCターボ
総排気量 3982cc
最高出力 510ps/6000rpm
最大トルク 69.8kgm/2000〜5000rpm
変速機 7段MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後)  通気冷却式ディスク
タイヤ(前) 255/40R20
タイヤ(後) 295/35R20
車両本体価格(10%税込) 1913万円

話す人=村上 政(ENGINE編集長)+齋藤浩之+荒井寿彦+上田純一郎(まとめも、すべてENGINE編集部) 写真=小河原 認

(ENGINE2020年5月号)

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