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CULTURE 2020.1.10 

エルンスト、ダリから日本の作家まで シュルレアリスムの100年

2019年はフランスでシュルレアリスムが誕生してから ちょうど100年。この節目の年に、箱根のポーラ美術館でシュルレアリスムの変遷を辿る大規模な展覧会が開かれている。

マックス・エルンスト《森》1927年

カンヴァスを凹凸のある物体の上にのせ、その質感を写しとる「グラッタージュ」という技法で描かれた作品。シュルレアリスムの代表的な作家であるエルンストは様々な技法を駆使した絵画作品だけでなく小説も執筆する など多岐にわたる活躍をした。油彩/カンヴァス 岡崎市 美術博物館蔵 ©ADAGP, Paris & JASPAR,Tokyo,2019 E3593(展示期間:2019年12月15日~2020年2月5日)

「シュールですね」。突飛な物事に出合い、受け入れることも拒絶することも即座に判断できないとき、人はしばしばこの言 葉を使う。カフカの『変身』も、つげ義春の『ねじ式』も、"シュールな話"で片付いてしまう。なんとも便利で、時には無責任にも聞こえる言葉、それが「シュール」だ。

このシュールという言葉は、シュルレアリスムという文学や美術の用語に由来する。キュビズムや印象派など、教科書で学ぶ美術用語はいっぱいあるけれど、日常会話で使われるほどポピュラーなものはシュールだけ。しかし、多くの人はシュルレアリスムとはどのようなものかを知らない。なんともシュールな状況だ。

サルバドール・ダリ《ビキニの3つのスフィンクス》1947年

1945年にアメリカが広島・長崎へ原子爆弾を投下したことに衝撃を受けたダリは、その後しばらく原子や量子力学をテーマにした作品を制作し続けた。人間の後頭部になぞらえられたスフィンクスの毛髪は、原爆投下の時に立ち上ったきのこ雲を彷彿とさせる。油彩/カンヴァス 諸橋近代美術館蔵 ©Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR Tokyo,2019 E3593

1919年、フランスの詩人アンドレ・ブルトンらは、高速でペンを走らせることで無意識に飛び出した言葉を紡ぐ「オートマティスム(自動記述)」の技法で制作を始めた。ブルトンは、理性で自分自身を縛り付けている現代人の生き方を批判していた。そして、夢や無意識などを通してこの統制を解放すれば、人間の本質に迫れるはずだと考えるようになった。

これがシュルレアリスムの基本的な考え方だ。文学から始まったシュルレアリスムは芸術にも伝播し、マックス・エルンストやサルバドール・ダリなどの作家が次々と作品を発表するようになる。つまり、2019年はシュルレアリスムが誕生してちょうど100年という節目の年なのだ。

古賀春江《白い貝殻》1932年(昭和7)

本名:古賀亀雄。絵画制作と並行して詩作も行い、シュルレアリスムに早い時期から影響を受けた。本作品はボッティチェリの描くヴィーナスのような女性、幾何学的なモチーフ、貝などがモンタージュ風に配されたもの。幻想的とも言える作品を制作したが38歳で早逝。油彩/カンヴァス ポーラ美術館蔵

ポーラ美術館で開催されている「シュルレアリスムと絵画」展は、このシュルレアリスム100年の変遷をたどっていくものだ。海外のシュルレアリスムの展開はもちろんのこと、日本人作家たちの作品も多数展示されている。

ブルトンらの動きにリアルタイムで影響を受けた福沢一郎や古賀春江、三岸好太郎、そして戦後に活躍した吉原治良や瑛九など、自分たちなりにシュルレアリスムを解釈し、独自の要素を加え、日本独自の「シュール」へとローカライズさせている過程はとてもおもしろい。

「シュール」を知ることで、シュルレアリスム本来の理解も進んでいくのが刺激的だ。冬の箱根を訪れて、わかったつもりで 使っている「シュール」という言葉の意味を、改めて考えてみよう。

三岸好太郎《海と射光》 1934年(昭和9)

ヨーロッパの前衛芸術を積極的に取り込み、蝶と貝殻をモチーフにした幻想的で独特な絵 画作品を発表し続けた 。日本におい てシュルレアリスムは、幻想的な芸術として受け止められ、ヨーロッパで重視された無意識を追求する姿勢はあまり重用されな かった。油彩/カンヴァス 名古屋 市美術館蔵

「シュルレアリスムと絵画―ダリ、エルンストと日本の『シュール』」は2020年4月5日まで箱根・仙石原のポーラ美術館にて開催中。
詳細はホームページまで https://www.polamuseum.or.jp/
TEL.0460-84-2111

文=浦島茂世(美術ライター)

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