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PLAYING 2019.12.8 

【ENGINE・ハウス】縁側のあるモダンな平屋住宅 旧車のミニと里山で暮らす

愛媛県の松山市の郊外に広がる里山を背にした田園地帯に佐川邸は建っている。旧車好きのオーナーが作ったのは、里山の風景に溶け込むモダンな平屋住宅だった。

愛媛県の松山市の中心部から10キロほど。田園風景が広がり、山が大きく見える里山と呼ぶに相応しいエリアに佐川昭二さん(50歳)の家は建っている。祖父母が作り佐川さんが育った家を、建て替えたものだ。暮らしているのは、サラリーマンの佐川さんと奥様、そして小学校に上がる前のお子さんが二人。設計は、広島を拠点にする小松隼人さんだ。今でこそ建築界では名の通った売れっ子だが、当時は独立したての無名の新人。松山の工務店が主催した建築家を紹介するイベントで、建て主が気に入った一軒を設計していたのが小松さんだった。

「殆ど実績がない自分を選んで頂いて、本当に感謝しました」と、語る小松さんは、この家の設計に多くのエネルギーをつぎ込んだ。完成した家は、アイディアから細部に至るまで、時間をかけたのがよく分かる細やかな設計になっている。既製品で間に合わせることの多いキッチンや家具の多くも、自分でデザインした。センスの良い施主に満足してもらうためでもあろう。

そもそも佐川さんは、スキューバーダイビング、自転車、キャンプ、スキーなどの他に、ワインを楽しむ多趣味な人。時には松山からクルマを2時間ほど走らせ、高知のダイビングスポットに。また、お酒を楽しむとなると、繁華街から遠くて帰りが大変なので、近場のキャンプ場にテントを立てて一泊し、夜に仲間と楽しい時間を過ごすなど、なんとも豊かなライフスタイルを送っている。こうした場面で、アウトドア用のレジャー・ツールを積み込み、普段の足にもなってきたのが、ランドローバー・ディスカバリーやゴルフ・ワゴンなど。拘りが窺える。

小さく可愛い旧車で

それとは別に、走るためのクルマも所有してきた。好みは、古くて、小さい、可愛いクルマ。22歳の時に手に入れたのは、SP311型と呼ばれる丸い目をしたオープンのダットサン・フェアレディ(1967年型)だ。走るのにうってつけのワインディングロードが近くにあり、その先の峠で旧車クラブの仲間と落ち合い、情報交換を行う週末が何年も続いている。

ガレージの中にもうひとつの屋根が見えるが、途中に雨樋があり雨でもクルマが濡れることは無い。現在の愛車のミニは、「女性オーナーが、故障が多いからと手放したが、僕の所では全く問題ない」とか。カニ目の愛称で呼ばれるオースチン・ヒーレーは、友人の手に渡ったかつての愛車。

15年乗ったフェアレディを、写真のオースチン・ヒーレー・スプライトMk.Ⅰ(1959年型)と交換したのも、旧車クラブの仲間である。10年ほど乗ったが、4年前に東京へ転勤となり、幼馴染で旧車仲間の友人に譲ることに。転勤から戻っても、友人としては、簡単にヒーレーを返すことはできないだろう。そのような訳で現在は、内外に手が入ったお洒落なインテリアのローバー・ミニ(1994年型)で、峠のドライブを楽しんでいる。こうした古いクルマのメンテナンスは、自分で行わずに信頼おけるショップにお任せ。心残りなのは、数年前にそのお店から声を掛けられたのに見送ってしまった、古いアルピーヌA110だ。

そんな佐川さんの家は、2台が縦列駐車できるように設計されている。普段停まっているのは、ミニと通勤やレジャーで使用しているワンボックス・カー。小さいクルマが好きなため、車庫のサイズも少し小さめだ。

そもそも佐川さんが、建築家の小松さんにお願いしたのは、明るく、既存の庭が見える縁側のある家。そのうえ、面白い家に住みたいともリクエストした。

そして小松さんが設計したのは、かかる要望と、周辺環境や長年のご近所さんとの関係を配慮した、以前と同じ平屋構造の家である。周囲にはトーンの異なる3色のグレーの屋根瓦を使った家が多いので、佐川邸も屋根だけでなく壁にも同じような3色の屋根材を貼り、風景に溶け込むように心がけた。西隣の家に住む両親は、佐川さんの家の南側にある庭を通って出入りしている。そこで庭に面した部分に、祖父母の建てた日本家屋と同じような、長い軒下と大きな開口部、そして現代の縁側のようなスペースを設けた。縁側部は、腰かけるには少々高いが、季節の良い時期は大きな窓を開け放ったままなので、庭から屋内の家族と簡単にコミュニケーションできる仕組みになっている。

佐川邸の南側。右手は古い時代からの道路で、左手に見えるのは両親の家。特注の大きな木枠のガラス窓を開くと、抜群の解放感が。コンクリート製の張り出し部分は、日本家屋によくある縁側のよう。この庭が両親宅への通路となっており、佐川さん家族とコミュニケーションがとれる。
佐川邸の南側は、リビングダイニングを中心とした大空間。上写真左手の庭に面した部分は、全面が窓。中央奥に見える斜面の裏側が段々状の中庭。大開口部とこの斜面実現のため、一部をコンクリート造に。ソファは、建築家である小松さんのデザイン。
この家の主の佐川昭二さん(右)と、オースチン・ヒーレーを譲り受けた幼馴染の坂本文広さん。左奥の一段下がった位置がキッチン。ダイニングチェアは、佐川さんが徳島の本社まで出向いて選んだ、宮崎椅子製作所の「DC9」。それに合わせたおにぎり型のテーブルは、小松さんのデザイン。テレビボードも小松さんが手がけた。
一段下がったキッチンは、庭が望める絶景ポイント。かつての庭をできる限り遺したうえ、佐川さんの父君が旧家にあった瓦などを置いて個性あふれる景観に。

そしてこの家の大きな特徴が、南北に深い平屋の北側の部屋に太陽の光が届くよう、中庭を設けていること。しかもこの庭が、段々畑のような構造で、観葉植物が植わっているのだ。この中庭を実現させるための、家の構造が実にユニーク。南、中央、北の3つのブロックに分け、床の高さが工夫してあるのだ。玄関、キッチンなどがある中央のブロックは、地面のレベルの高さだが、リビングダイニングなどがある南は、床が90センチ上がっている。そして北も、南と同じく90センチ上に。こうしてできたギャップを利用し、段々の中庭が生まれたのである。結果、北側の部屋は、希望通りの明るい空間に。しかも爽やかで解放感がある。また、この中庭があるから、リビングダイニングの北側上部に窓を設けることができ、風通しが良好になった。そして何より、段々畑に植物の植わった中庭があることで、建て主が希望した面白い家になったのではなかろうか。

バスルームからも、中庭の段々状の緑が見える。
中庭があることで、十分に明るく開放的な北側の客間。リビングダイニングからも程よい距離だ。丸テーブルも小松さんが。中庭の植物は成長が速くまめな水やりと手入れが必要だが、佐川さんはそれを楽しんでいる。将来子供部屋となる倉庫には、沢山のレジャー用具が。佐川さんはスキューバーダイビング好きで、何度も海外に出かけている。モルディブを新婚旅行先に選んだ小松さんには、事前にアドバイスも。

この家で、まだ小さい子供たちはどのように成長していくのだろう。そして、旧車好きの佐川さんのカーライフは、どう変化していくのか。いずれにしろ里山にある佐川邸は、豊かな生活を送るのに相応しい舞台だと思う。

■建築家:小松隼人 1979年、広島県生れ。立命館大学大学院修了。SUPPOSE DESIGN OFFICEを経て独立。40歳前後で最も活躍している建築家のひとりで、最近は瀬戸内の景観を生かした住宅や大きな施設の依頼も。広島近県のクライアントには、愛車ジープ・ラングラーで出かける。将来はこのクルマで子供とキャンプに行くのが夢。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

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