CAR 2019.11.29
サソリの毒は永遠に不滅 アバルト70周年記念 #3 ヘリテッジ・ハブでアバルトの過去に触れる
実はイベントの2日前にトリノにあるFCAのミラフィオーリ本社工場内に設立されたクラシック・カー保管庫を訪れ、アバルトのヘリテージ・モデルを間近で見ることができた。そこには今の500シリーズのアバルト・モデルの礎とも言える2代目500をベースにアバルトがチューニングしたエンジンを搭載する速度記録挑戦車をはじめ、カルロ・アバルトが1950年代中盤から60年代に掛けて盛んに挑んでいた速度記録挑戦車のフィアット・アバルト750および1000レコード、さらにはフィアット・グループに入ってから開発したフィアット・アバルト124ラリーやフィアット・アバルト131ラリーなどが並ぶ。
特徴的なのはその多くからモータースポーツの匂いがすることだ。しかも、自らがすべてを差配していた1960年代までだけでなく、1971年にフィアット傘下に入ってから残り8年(もちろん彼は自らの余命を知っていたわけではないが)になっても、そしてそこで課せられた至上命題が勝利だったとはいえ、勝つことに執着していたのが、いかにもカルロ・アバルトらしいと言えるのではないだろうか。
カルロ・アバルトの愛車に乗る
そんな至宝の中から今回なんと、短い距離ではあったが、2台の貴重なアバルトに乗ることができた。1台は日本でお馴染みの2代目500に595のエンジン・チューニング・キットを装着したもの。そして、もう1台はなんと生前にカルロ・アバルト自らが愛用していたフィアット・アバルト2400だ。
まずは2400のシートに収まる。しっかりと整備が行き届いているのか、アイドリングでも全くグズらないエンジンに感心しつつスタート。驚いたのは扱いやすさと乗り心地の良さ。アバルトとしては珍しいラグジュアリー・クーペということもあって変速機はすべてシンクロが付いているし、脚のセッティングもとてもしなやか。上質でスポーティ、例えるならBMWアルピナみたいなクルマだった。ちょっと面白かったのは、そういった高級な仕立てを持つにもかかわらず、エグゾーストが奏でる音がいかにもアバルトらしいものだったこと。レーシング・マシンではなくてもアバルトの技術が活かされている証だろう。
もう1台の500は想像した通りのアバルトだった。全体的にカリッとした乗り味で、変速機がノン・シンクロだったこともあるが、2400クーペよりもスパルタン。ただ、2代目500の常で、威勢はいいんだけど遅い(笑)。まぁ、そこがまた愛らしくていいのだけれど……。
時系列は前後してしまったが、今回はトリノのクラシック・カー保管庫から始まり、ミラノで行われた70周年モデルの試乗、さらに70周年を祝うイベントと、アバルトの昔と今にじっくりと触れることができた。カルロ・アバルトが常に向かい合ってきたレースで勝つというところはトーン・ダウンしているものの、多くのクルマ好きの心を今も揺さぶり続けていることは十分に感じられた。
70年経った今も、サソリの毒はクルマ好きの心を魅了し続けている。

トリノにあるFCAのクラシック・カー保管庫、ヘリテッジ・ハブには、アバルトのヒストリック・モデルも多数、しかも動態保存されている。この赤いクーペは、フィアット・アバルト2400と呼ばれるモデルで、フィアット2100ベルリーナをベースに独自のボディを架装したもの。もちろん存在するだけでも十分貴重なモデルだが、さらに付加価値が付いている。それは、カルロ・アバルトが愛用していたクルマそのものなのだ。アバルトと言えば、スポーティ、レーシーといったものを想像するが、このラグジュアリー・クーペはその固定観念を覆す大人のクルマだった。




2代目500に595用のエンジン・チューニング・キットを装着し たクルマ。カルロ・アバルトが技術者としてだけでなく商売人 としても優れていたのは、コンプリート・カーだけでなく、この ように後付けのキットを用意したところにある。


1959年2月、カルロ・アバルトはノーマルの500用に自らが手掛けたチ ューニング・キットにさらに手を加えたエンジンを載せ、速度記録に挑戦。 以前、イタリアのモンツァ・サーキットにあったオーバル・コースにおい て7日間で平均108.252㎞/hという記録を樹立した。


1971年にフィアット傘下に入ったアバルトはフィアットの競技車両の開発などを主に請 け負うことになる。そんな新生アバルトが初めて手掛けた競技車両がこの124ラリーだ。

WRCでランチア・ストラトスに惨敗した124ラリーの後継車として開発したのが131ラリー。 このクルマで1977、78、80年の3回に亘りWRC王者の座に君臨する。
文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=FCA、新井一樹(ENGINE編集部)
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