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CULTURE 2019.10.29 

ソ連ミュージックを再発見 古くて新しい音楽の「超大国」、その奥深い魅力とは。

歴史の彼方に消えたソビエト社会主義共和国連邦。そこでは厳しい検閲の合間を縫い、優れた音楽の数々が生まれていた。命がけの情熱に溢れたメロディと歌声が、いま脚光を浴びている。

山中さん所蔵の肋骨レコードで、2枚とも ピョートル・レスチェンコというミュージシャンの曲が収録されている。一般的に骨が鮮明なほど値段が高くなる傾向があり、レアな頭蓋骨などは数万単位にもなるとか。

第二次世界大戦終結後、地図にはない境界線でふたつの地域が生まれた。欧米を中心とする西側、そして極東から東欧まで広がった東側。嗜好の自由が保証された前者から見て、「共産」とは名ばかりの後者はまさに陰鬱な独裁国家だった。

とはいえ、鉄のカーテンの向う側にも血の通ったカルチャーは確かに存在していた。そのひとつが最近注目を集めている旧ソビエト連邦の音楽。勇ましい革命歌という先入観を心地よく裏切り、ジャズ、ポップス、サイケデリックとそのバリエーションは驚くほど多彩だ。

こうした旧ソ連の音楽を豊富に扱っているディスクユニオン 新宿プログレッシヴロック館店長、山中明さんはこう語る。「ミュージシャンは、ちゃんとした国の教育を受けたエリートが多く、音楽的な素養のある人が多い。音に厚みがありますよね。また、連邦ですから、地域ごとに音楽がまったく異なるのも魅力です」

とはいえ、連邦を通じて検閲というレッドラインは存在する。歌詞や音が反体制的と判断されようものなら、強制収容所行きは免れない。ミュージシャンはもちろん、リスナーも命がけだった。その象徴といえるのが「肋骨レコード」。使用済みのX線写真に溝を刻み、違法に音楽を収録した海賊盤だ。煙草の火を押し付けてセンターホールを開けたといわれるほど粗雑なつくりだった。

左/ミルザ・ズィーヴェレ「ア・デイ・イン・ マイ・ライフ」(1979年)

ラトビアで活躍したプログレッシブ・ファンク・グループ「モド」の女性シンガーのソロデビュー作。エレクトロディスコやクール&メロウなミッドチューンなど、隙のない楽曲がいっぱい。

右/メロディアアンサンブル「ラビリンス」(1974年)

ソビエト最高峰のジャズグループの代表作。ジャズ、ファンク、サイケの要素が一体となったそのサウンドは、ベース、ドラム、ホーンの圧倒的な迫力で永遠のマスターピースと呼ばれる。

「プレーヤーにかけると数回でダメになる」と山中さんは語るが、それは経年変化ばかりではなく、当時としてもさほど耐久性はなかったのだろう。にもかかわらず、丸めてコートの袖から袖への受け渡しといった禁止薬物のような取引で密かに流通していた。

レッドラインは指導者と世界情勢によって検閲基準の上下を繰り返し、20世紀末にソ連邦崩壊によって消え去る。かつて禁止されていた音楽は地下から解放され、マニアを惹きつけるカルチャーのひとつとなった。

だがそれは決して物珍しさだけではないだろう。「ただ好きな音楽を思うままに聞きたい」という体当たりの情熱が、デジタルに慣れ切った現代人の鼓膜を打つ。「辺境ではなく先端」(山中さん)という旧ソ連音楽には、まだ耳にしたことがない旋律の鉱脈が眠っている。

左/シャトリク「フォー・ユー」(1983年)

中央アジアのトルクメニスタンのアジアン・ソウル・グループが唯一録音した作品。フィメールボーカルとファンキートラックの組み合わせが絶妙。グループ名は同国の天然ガス田から。

右/アップル「カントリー・フォーク・ロック・バンド」(1980年)

ベラルーシが誇る伝説的なサイケデリック・ロック・クインテットのデビュー作。モスクワ・オリンピックに合わせ、旧ソ連で初めて4chで制作された。アシッド感漂うレッドサイケの名作。

※すべて山中明さん所蔵のアナログ盤(タイトルは英語題)。現在は在庫切れだが、定期的に入荷あり。

問い合わせ=ディスクユニオン 新宿プログレッシヴ・ロック館 Tel.03-3352-2141

文=酒向充英(KATANA) 写真=多田 寛

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