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CULTURE 2019.9.9 

世界でひとつのスペシャルな文房具の品揃え 左利き用の店

古来、さまざまな分野で才能を発揮してきたレフティー。だが日常生活では不自由な思いをすることが多い。そんな悩みに応える一軒の文房具店が注目を集めている。

(写真左上から時計まわりに)トランプ/広げたときに数字とマークが隠れないように四隅に配されている。3500円 ペン/速乾インクを使用したペン。左に向けて腕が動く際、袖が汚れない。各150円 彫刻刀 /刃の向きが逆。400円 扇子/左手首のスナップで開きやすいように要と骨を組んでいる。5400円 はさみ/こちらも刃の組み合わせが逆になっている。150円 レードル/左利きの料理人の人気アイテム。 左でよそって器に注ぎやすい形状に。950円 急須/こちらも左手で取手を持ち、右手で蓋を押さえて使う。5400円 三角定規/目盛りが反対側に記されている。120円

 ダ・ヴィンチ、ダーウィン、ニュートン、アインシュタイン、モーツァルト、ミケランジェロ。すべて左利きの偉人たちだ。またアメリカ大統領ではフォード、レーガン、ブッシュ(41代)、クリントン、オバマもレフティー。定説では人種、国籍を問わず、左利きは人口の一割程度と言われている。過剰な評価は慎みたいが、やはり何らかの才能に恵まれているのかもしれない。

一方で〝克服すべき障害〟という偏見に晒されていたことも事実。特に日本ではかつて不便という理由から、無理に右利きになるように矯正されることが少なくなかった。

特に必要とされるのが危険を伴う刃物。菊屋浦上商事でも、現社長の家族のケガがグッズを扱うきっかけに。

神奈川県の相模原駅近くにある文房具店「菊屋浦上商事」は、左利き用ツールのコーナ ーを設えた珍しいショップ。ステーショナリーはもちろんのこと、調理用具やトランプなどもそろえている。もともと社長の浦上裕生さんは印鑑職人だった祖父、そして弟とともに左利き。そんな家族の事情も大きいが、直接のきっかけは弟のケガだったという。

「中学生のとき、右利き用のカッターを使っていて深く指を切ってしまいましてね。両親が『うちの店こそ、ちゃんと品ぞろえすべきだ』と」間もなくネット通販を始め、多くの注文が舞い込むようになるが、やがて意外な事実を知って取りやめることになる。「買っていただいた方から、 不満が何度か寄せられたんです。なんか使いにくいって」

左利きといっても一律ではない。特に多いのが、右利き用ツールを使う癖が抜けず、指の動きや向ける角度に違和感があること。熟慮の末に通販サイトは閉鎖。実際に来て試し、納得したうえで購入してもらう店頭販売に絞った。その結果、「世界にひとつしかない店」と評判を呼び、現在は日本国内だけでなく、海外から訪れる顧客も多いという。

菊屋で開発から手がけた折り畳み式チェア。左側にテーブルがあり、自然な姿勢でメモが取れる。受注生産。

腕の動きは脳の働きと密接なつながりがあり、実は奥が深い。たとえば武田双雲は左利きだが、書を書くときは右手を使う。また片岡鶴太郎は普通の動作は右で行うが、絵は左で描く。さらに最近では「左利きはクール」と憧れの対象になっているようだ。

「右利きなのに、左利きになってみたいからとうちにツー ルを買いに来る若い人が増えています」と、自身でも左右を使い分ける浦上さんは笑う。

レフティーにとって、まだまだ日常生活は不便なことが多い 。だが、「矯正」が「強制」されていた風潮は確実に過去のものになった。右利きと左利き、そしてその両方を使える資質。社会は「共生」という柔軟性を獲得しつつあるようだ。

問い合わせ=菊屋浦上商事株式会社 
Tel.042-754-9211 
http://www.kikuya-net.co.jp 
神奈川県相模原市中央区相模原6-26-7

文=酒向充英(KATANA) 写真=多田 寛

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