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PLAYING 2019.7.21 

正面の形はサザエさんのアレ。クルマ好き仲良し家族が集うエスハチ・ハウス。/クルマと暮らす26

ふたつの家にもうひとつの家がくい込んだようななんとも不思議な石川邸。そこは、 クルマでつながる家族が集まる場所だった。

父の愛車エスハチのための家を、息子が設計

小さなホンダS800(1968年型)が、キレイに収まるように建てられた横浜市の石川邸。ここに開業医でクルマ好きの操さん(69歳)と、奥様の久実子さん、そして長男の陽さん家族と長女の郁菜さんが暮らしている。設計は、独立して家庭を持っている次男で建築家の亮さんと、傳田アーキテクツの傳田剛史さんとの協業。二人の若々しい発想を、仲の良い家族が受け入れた結果、個性的だが温かさを感じる家ができあがった。

家族が多いと、家を建てる際には各人の要望が異なるもの。意見は簡単にはまとまらなかったが、最終的には長年頑張ってきたクルマ好きの父親に敬意を表し、操さんにとって思い出深いS800を美しく飾る家を作ることとなった。

↑数多い所有車の中から取材撮影のために選んだのは、ランドローバー・ディフェンダー。ホンダS800を見せることをテーマに設計された石川邸は、2つの世帯が暮らす住宅である。右手のグレーの建物が個室棟。杉板を張った家型の部分が共用部分で、玄関は外階段を上った2階にある。家の前には、3台分の駐車スペースが。

↑エスハチの横に停めてあるバイクは、長男のホンダ・ドリーム50。次男は色違いの1台を所有。飾られているエンジンは、オーバーホールしたエスハチのスペア。

↑ガレージに掛けられたパネルには、操さんの歴代の所有車が。父親の還暦祝いに子供たちが作成した。

「これまで買ってきたのは、殆ど中古車ばかりで、新車は数えるほど」と話す操さんが乗ってきたクルマは数多く、この家には計4台分の駐車スペースが。取材のため、家の前は最も気に入っているランドローバー・ディフェンダー(2002 年型)を停めたが、そう遠くない所にある病院の駐車スペースには、随分と多くのクルマを置いている。所有車は、ダットサン・フェアレディ2000、ポルシェ911スピードスター、フィアット・アバルト1000TC、初代のダイハツ・ミゼット、メルセデス・ベンツのA、E、Gクラスなどなど。これだけクルマがあるので、同居する陽さんや同じ市内に住む三男の善衛さんは、自身のクルマを所有せず、必要な時は「家のクルマ」を使っているそうだ。

もちろん家族の思い出の多くは、クルマと共にある。看護師である妻の久実子さんは、「子供たちが生まれる前、仕事が21時頃に終わってからの夫とのデートは、閉店した中古車屋のウインドーショッピングでした」と、楽しそうに回想する。長女の郁菜さんは、家族でモーターショーやF1を観に行ったことが記憶に残っているとか。そして三兄弟は中学・高校時代は親元を離れ、全寮制の学校に。

週末、実家に戻ってきた長男・次男を、操さんは夕方から診療があるにもかかわらず、レーシングカート場へ連れて行った。実は陽さんは、全日本選手権でもかなり名前を知られたレーサー。送迎は、たまにしか子供に会えない父親にとって幸せな時間だったという。陽さんも、父親のクルマで一番印象に残っているのは、カートを積むために手に入れた、かつて給食の配送に使われていたトラックと話す。

そして成長した子供たちが随分とお金を出し、8年前にやってきたのが、この家のガレージに納まるS800だ。操さんは若い頃にエスハチに乗っていたが、当時のクルマは大掛かりなレストアが必要なため、操さんの実家に大切に保管されているという。

そんな石川家が暮らしていたのは、操さんの病院の2階。築30年を超えているうえ、人を招くには手狭だった。そこで新たに家を建てるために手に入れたのが、公園に面したこの土地だ。設計当時の亮さんは、手続き上自身で設計することができず、縁のある建築家の傳田さんと共同設計することに。早い段階から傳田さんも打ち合わせに加わり、アイデアを形にしていった。

建物を貫く家型の構造体

こうしてできあがったのは、1階が親世帯、2階は子供世帯の個室がある、2世帯が暮らす住宅だ。しかし一般的な2世帯住宅のような間取りではなく、玄関もリビングダイニングも2階にひとつあるだけ。ユニークなのは、個室と共用スペースを、建築的に全く異なる構造としたことだろう。家の正面から見て、四角いグレーの部分が個室のある建物で、離れて2棟建っている。杉板の外壁で家の形をした部分が共用スペース。

この家型の構造が、2つの棟を繋いでいるのだ。しかも家型は個室に食い込んでおり、天井の高い2階の個室では、斜めになった上面が屋根のような仕上げに。ロフトから見える光景は、なんとも非現実的である。普通なら屋根など作らず収納にしてしまうだろうが、遊び心だ。この独創的な空間を、アーティストでもある長女の郁菜さんは、個性的なインテリアにして楽しんでいる。

その他の間取りは、外階段から2階に上がった先が玄関。来訪者とちょっとしたお喋りができるようにと、玄関ホールはかなりの広さがある。しかも家型の構造は途中で折れ曲がっているので、玄関から奥のリビングダイニングが見えてしまうことはない。そして2階の共用部は、母、久実子さんの希望で、山小屋風のインテリアに。薪ストーブも入れた。

↑外壁に杉板が張られた家型の構造体が、道路側から家の端まで続いているのが、公園側からだとよく分かる。

↑平面図で「寝室2」に当たる長女の部屋。部屋のインテリアは、天井に構造の梁が見える山小屋風。窓の位置や大きさ、天井高のバランスから居心地の良い空間になっている。

↑親世帯の居室のある1階は、和を感じさせるインテリア。公園を望む土間は、将来陶芸を楽しむことを想定してのもの。

↑玄関とホールは、幅、高さとも余裕のある造り。大家族なので、たっぷりとしたシュークローゼットが左手に。

↑階段踊り場には、クルマ好きならではのデコレーションが。

仲良し家族をかたちに

リビングダイニングの窓の外は公園で、この絶好の環境を楽しみながらプライバシーが確保できるように、窓の高さと大きさは配慮されている。また、ダイニングの家具の高さを数センチ低くしたお陰で、座ると空がよく見えるように。住宅街に建つ家にもかかわらず、開放感がある。ところでこの家の正面の形は、何がモチーフかお分かりだろうか。

「テレビアニメ、サザエさんのエンディングで、家族全員が階段を上って、ちょっと高い所にある、典型的な家の形の建物に入っていくシーンをイメージ。家型の建物が、家族の集まる場所となることを目指した」と、建築家の亮さんは解説する。

まさか家の外観が、あのアニメから来ていたとは。もっとも、それぞれの家族の距離が近く、お互いを思いやる石川家の皆さんの話を聞いていると、磯野家に通ずるところを感じるものだ。この家族が暮らすのは、現代のサザエさんの家が相応しいのかもしれない。

イラストにあるように、家型の構造体が2つの個室棟をつないだプラン。2階の個室の天井は3.6mあり、ロフトを備える。個室の内部に食い込んだ家型の構造体の上部は、屋根を張ったような仕上げが。

■建築家:傳田剛史 1981年長野県生まれ。工学院大学卒業後、各川建築研究室、南泰裕/アトリエ・アンプレックスを経て2013年に独立。住宅の他に、カフェ、ショールームなどを手掛ける。著作に『建築のスケール感』(共著・オーム社)が。元勤務先の建築家である南泰裕氏を通して、教え子である石川亮の知己を得る。

石川亮 1984年神奈川県生まれ。国士館大学大学院修了。アトリエ人杢座、三浦慎建築設計室を経て2018年に独立。夫人でインテリアデザイナーのマースさんと共同で事務所を設立し、フィリピンのマニラにも拠点を持つ。今回紹介した住宅の施主の次男。父親同様にクルマ好きで、フォルクス・ワーゲン・ビートル(1973年型)が愛車。 

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

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