PLAYING 2019.7.11
80㎡の敷地に建つ北欧家具が似合う目黒区の家。今どき都市住宅の愛車はSUV。/クルマと暮らす25
お気に入りのクルマとお気に入りの家具、そしてお気に入りの本に囲まれて暮らす目黒区のYさんの家。本のある家はやっぱりステキです。

今どきのSUVは凄い
目黒区に住む女性編集者のYさん(42)の家もSUVのレンジローバー・イヴォーク(2012年型)だ。自営業のご主人は車種にはこだわりはなく、このクルマに決めたのはYさん。かつてはBMW Z3にMTで乗っていたほどのクルマ好きだ。それが、アルファロメオ147を経て、今は運転していてイヴォークが楽しいと言うのである。この点も、一昔前と比べて変わったものだ。
「子供が男二人なので、アウトドアのスポーツやキャンプを楽しんだり、雪山に行くことを考えました。車高も低く立体駐車場に入れるうえ、小柄な私でも乗り降りが楽なクルマです。数あるSUVの中でも、自分と相性がいいのでは」というのが、イヴォークを選んだ理由。もっとも親の希望と違い、まだ幼い子供たちはゲームに夢中だ。
Yさんのカーライフは、下の息子さんのちょっと遠い幼稚園までの送迎が中心で、走るのは殆ど都内という。Y邸は、アルファロメオ147を想定して設計されている。イヴォークになり、車幅は20㎝近く広がったので、駐車スペースの余裕はなくなった。「縦列駐車が苦手なので、最初何度も練習した」のはご愛敬だ。

さて、仕事柄インテリアに詳しく、吟味された北欧家具を多数所有しているYさんは、建築にも関心が高い。以前の住まいはマンションで、工務店に依頼し、スケルトンからリノベーションした北欧調の部屋だった。そして二人目を身ごもった時に、建築家の設計した家に住むことを決断。まずは、共働きのため二人の子供を預かってくれる、実家から歩ける距離に79㎡の土地を確保した。
設計は、専門誌で調べ、好みのテイストの廣部剛司さんに依頼することに。中庭のある都市住宅を、数多く手掛けてきた建築家だ。都市住宅の宿命Y邸は、目立たないようにと近隣に配慮し、外壁をグレーに塗っている。大きく傾いた屋根が、イヴォークのルーフラインと調和しているように見えるが、この屋根は隣家の日照を確保する、斜線規制をクリアするためのもの。
例えばメイン写真で、右手の南側ならば2階の上部にロフトを設けることが可能だ。一方左手の北側は、高さを抑える必要がある。この部分にあたる主寝室の天井高は、高いところで3mだが北端は2.1m。結果、かかる屋根の形となった。

都市住宅で課題となるのは、いかに室内に太陽光を取り込み、どう法規制に対応するかだろう。その解決方法は様々であるが、廣部さんは東南の角に中庭を設けて光を導く方法を採った。この中庭は、1階のリビングとバスルーム、そして家を東西に横切る吹き抜けの階段室に面したもの。高さが6.5mの階段室は、西側の最上部にも光取りの窓が設けてある。この窓と中庭から入った太陽の光が、壁に乱反射して家の中に拡散していくのだ。外観からは暗い印象を受けるかもしれないが、その実Y邸の内部は明るい。
本は捨てられない
こうした基本を押さえつつ、建築家はYさんたちからの要望である書斎と、夜帰ってきた時に居心地のいいリビングを実現させている。Yさん夫婦の共通の趣味はマンガで、多くの蔵書を納めるため、本棚のある書斎が必要なのだ。そもそもYさんは編集者という仕事柄、本を捨てることに抵抗がある。だから蔵書は、かなりの数に膨らんだ。そこで廣部さんは、2階の南側の階高を上げ、壁面全部が本棚の書斎を用意した。
もちろん本の荷重を考慮した対応も行っている。そして上部にグレーチングを敷いて、梯子で上るロフトを設けた。面積の限られた家で、ここは数少ない籠れる場所。とはいえ、家族から気配が分かるよう、階段室に面して窓を設けた。


働く者にとっても、子供たちにとっても、リビングダイニングが憩いの場となるよう、廣部さんは随分と工夫している。前述のように、リビングの上にあたる主寝室は、規制をクリアするため、既に目いっぱいに空間を利用している。そこで床を30㎝ほど掘って(天井高は2.5mとなった)、容積を稼ぎ出し、空間に余裕を持たせた。テレビ台を兼ねたベンチを壁沿いに沿わせ、置き家具を増やさないで済むようにしたのも工夫のひとつ。しかもリビングは階段室とつながっているうえ、中庭にも面しているので、床面積よりも広さを感じるものである。

落ち着いた北欧家具の部屋
Yさんたちが以前住んでいた北欧風の部屋は、白い壁にブルーグレーのタイル、そしてチーク材の家具がある明るく色鮮やかなインテリアだった。その時の経験から、今度は落ち着いた色合いの家を造る方向に。そして選ばれたのが、持っている家具ともマッチするグレーだ。床のタイルは濃いグレーに。壁は薄いグレーで、外壁もグレーに塗った。
ちなみに屋内のグレーの壁は、珪藻土を吹き付けたもの。調湿、消臭、シックハウスなどに効果があり、結露は起きないという。中庭に面した、大きな窓のある露天気分を味わえる、ゆったりしたバスルームも忘れてはいけない。ご主人は、「自然と長風呂になった」と話す。


部はRがとられ、ちょっとしたアクセントに。

家ができて2年。マンション暮らしの頃と比べて、ご主人は家にいる時間が長くなり、お子さんたちはノビノビしているそうだ。良い住環境で、人は変わるのである。多くの家を取材して思うものだ。こうしたスタイルのある家で育った子供たちは、将来どんな大人になって、どんなクルマに乗るのだろうかと。いずれにしろ、お父さんやお母さんたちのように、家好き、クルマ好きに育ってくれれば嬉しい。

■建築家:廣部剛司 1968年神奈川県生まれ。日本大学卒業。芦原建築設計研究所勤務の後、世界の建築を巡る8か月の旅に。旅の模様は『サイドウェイ 建築への旅』として上梓。一連の海辺の別荘で広く知られている。小誌の一昨年の特集号にも、海辺の別荘で登場。写真は中庭のある「黒箱―渋谷H」。愛車は、20年間乗っているアルファロメオ・スパイダー・ヴェローチェ。
文=ジョー スズキ 写真=山下亮一
(ENGINE2018年3月号)