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CAR 2019.6.28 

まだ日本で試乗できない“新型ポルシェ911”に、ドイツで試乗。イヤになっちゃうくらい素晴らしい!

日本国内でもお披露目はされたものの、まだ試乗車がない新型911。それならば向こうで乗ればいいじゃないの、というわけで、いざドイツへ。カレラSのクーペとカブリオレで黒い森の中を徹底的に走り込んできました。モータージャーナリスト渡辺慎太郎さんとENGINE編集長村上 政が話します。

黒い森の中を計455㎞走った

(村上)今回は、日本では発表されたけれどまだ試乗車のない992型に、それならドイツで乗ってやろうということで、ジャーナリストの渡辺慎太郎さんとここまでやってきました。シュトゥットガルトのポルシェ本社で借り出したのは、992型カレラSクーペと同じくカレラSのカブリオレ。カブリオレはまだ日本では発表もされていないモデルです。ボディ・カラーはクーペがクレヨン。カブリオレがレーシング・イエロー。
(渡辺)あのクレヨンというのは、なかなかいい色でしたね。もちろん、定番のイエローも良かったけど。
(村上) クレヨンは最近流行の色ですね。それで、試乗コースはシュトゥットガルトから南下し、黒い森の中をグルグルと撮影しながら巡って、1日目はバーデンバーデンに宿泊。走行距離は279㎞。2日目はバーデンバーデンから再び黒い森の中の素晴らしい山道を走り、シュトゥットガルトに戻りました。これが185㎞で計455㎞を走ったわけです。
(渡辺)良かったのは、曇りから始まって、セミウェット、ドライ、さらにヘヴィウェットに霧と、あらゆる天候の中を走ることができたこと。それに加えて道も、一般道からアウトバーン、山岳路、最後は街中の大渋滞まで走ることができましたね。

今回走ったのは、シュトゥットガルト近郊のツッフェンハウゼンから南下し、シュバルツバルト(黒い森)の中を巡ってバーデンバーデンまで行くコース。ワインディング・ロードの連続で、スポーツ・ドライビングを楽しむにはうってつけだ。

(村上) 今回走れなかったのは、サーキットとオフロードだけです。それでとてもいろいろなことが分かったと思うのですが、僕は今年の1月にスペインのバレンシアで開かれた国際試乗会で一度乗っている。渡辺さんは今回初めてということで、まずは率直な印象から聞かせて下さい。
(渡辺)誤解しないで下さいよ。実は、なんかちょっとイヤになっちゃったな、と思ったんです。その理由は二つあって、ほぼ想定内の正常進化をしているのがすぐに分かり、どこかケチをつけてやろうと思って、いろいろなことを試したり、観察したりしたんだけど、それがない。ケチのつけようがないことに、ちょっとイヤになっちゃった。もうひとつは、どうしてこれがポルシェにしかできないんだろう、ということ。走る、止まる、曲がるというクルマの基本について、これだけきちんとしたクルマはほかにはない。他のメーカーがみんな長い間ポルシェをお手本にしてきたのに、いまだにそれができているところはひとつもないのがこの新型911に乗ると良く分かって、いい意味で呆れてしまったんです。

(村上)なるほど。それでは、どうして〝イヤになっちゃった〟のかを今日はもっと掘り下げて行きましょう。まず、ポルシェ本社で乗り出した時の第一印象はどうだったのですか?
(渡辺)いつも新しい911が出ると最初の印象は同じなんです。つまり、目をつむって運転しても、これは絶対に911だとわかる。もちろん、音が後ろからしているとか、その音がフラットエンジン特有のものだというのがあるけれど、それ以上にペダルとステアリングの操作、すなわちドライバーの入力に対するクルマの反応がいつも一緒なんですよ。エンジンが変わろうと、ボディが大きくなろうと重くなろうと、どう進化しようと、そこの部分が変わらない。
(村上)確かに最初の数百メートルを走っただけで、これは911で、しかも正常進化したなとわかる。僕は今回乗り始めた時、正常進化というのはその通りなんだけど、とりわけ乗りやすさとかスムーズさという点で大きな進化を遂げたなという感じを改めて強く持ちました。
(渡辺)僕はそんなにポルシェ・フリークではないので分らないのだけれど、果たしてモデルチェンジするごとにどんどんスムーズに乗りやすくなることが、911を愛する人たちにとって喜ばしいことなんですか?

■911 カレラS クーペ

オプションのクレヨンのボディ・カラーを纏ったカレラSクーペ。インテリアはブラックのスタンダード・レザーで、オプションの電動サンルーフ付き。
ドライブ・モード切り換えのロータリー・スイッチはステアリング右下にあり、モードはメーターパネル内に表示される。

■911 カレラS カブリオレ

スタンダード・カラーのレーシング・イエローを纏ったカレラSカブリオレ。エクステリアには、オプションのスポーツデザイン・パッケージを装着。
シートはレザーとチェッカーフラグのファブリックを組み合わせたオプションで、ステッチにはクレヨンの糸が使われていた。こちらもPDCCをはじめ、リア・アクスル・ステアリング、スポーツ・エグゾースト、さらにはポルシェ・カーボン・セラミック・ブレーキ(PCCB)までテンコ盛りされていた。

ポルシェの民主化が進んだ

(村上)いやぁー、これはいきなり本質的な命題が出てきたね。それは最後まで議論していかなければならないと思うけど、今回の特集のタイトルは「古くても、新しくても、ポルシェは楽しい!」で、そのココロは最新の992にも最初の356にもナローの911にも、一本貫かれたポルシェの味があると言いたいのがひとつ。しかし、その一方で、どのポルシェも911も違っている。その時代ごとの味がある。その両方の味をどう見るか、あるいはどう味わっていくかがポルシェの楽しみではないかと言いたいの。で、さっきの渡辺さんの疑問に戻ると、僕はいま、ポルシェの民主化というものが圧倒的に進んでいるのだと思いますよ。
(渡辺)えっ、それはどういうこと?
(村上)やっぱりポルシェ、とりわけ911は特殊なレイアウトを持つ独特のハンドリングのクルマであって、決して敷居の低いものでは、ついこの間までなかったと思うんです。僕はいま長期テストで996カレラ4Sに乗っていますが、あれだって独特の癖のあるクルマで万人が気持ち良く乗れる代物ではない。もちろんそれに慣れれば素晴らしい世界が待っているわけだけど、そこに行くには時間もかかるし腕も要る。でも、今回の992型に乗ると、走り出した瞬間から、これは敷居がまた一段と低くなったなと感じる。本当にクルマの取り扱いがしやすいですよね。

(渡辺)僕が初めて乗った911は89年に出た964だったけど、まだこの業界に入ったばかりで運転もうまくなかったし、経験値も低かった。その時の強い印象がふたつあって、ひとつは内装がなんて安っぽいんだろうと思った。もうひとつは、マニュアルだったせいもあるのだと思うけど、なんて運転しづらいクルマなんだろうと思った。クラッチは重くてきちんと繋ぐのが大変だったし、RRの独特のレイアウトによる操縦性の癖にも面食らった。いつもアンダーステアになっちゃう。切り遅れや進入速度が合ってないとか、自分に問題があったのを、当時は全部クルマのせいにしていたわけです。だから、なんでみんなが911がスゲェスゲェと言うのかが、正直言ってさっぱりわからなかった。
(村上)ヘエー、渡辺慎太郎にもそういう時代があったんだ。
(渡辺)ただ、その後、経験値やスキルが上がってくると、あの乗りにくい感じをうまい具合に制圧すると、とたんに面白くなることがわかってきた。重いドアを開けたら、その奥にオアシスが広がっていたみたいな。
(村上)走りのオアシス。
(渡辺)あっ、これをみんないいと言っていたのかとわかった。そこに行くまでには何年もかかりました。
(村上)ところが、いまの992型に乗ると、89年から何年もかけて渡辺さんがした苦労を一足飛びに越えて、最初からドアの奥のオアシスにたどり着いちゃう気がしませんか。
(渡辺)僕の頃は鉄製のドアを思い切り押していたのが、今ではガラス張りの自動ドアになった感じ。向こうが見えるし、前に立っただけでフワッとドアが開いてスッと入れちゃう。
(村上)いまの992型に乗ると、誰が乗っても数百メートル走っただけで、これは乗りやすいいいクルマだと思うでしょうね。少なくとも996、いや997まではこんなに乗りやすいクルマではなかった。991で劇的に良くなったけれど、それでも前期型は荒々しくて、それなりに手なずけなくてはという感じがあった。後期型でカレラがターボになった時にすごく乗りやすくなったけれど、今回はその乗りやすさのステージがポーンと上がった気がする。

リア・ウイングが上がると下からもうひとつのストップ・ランプが現れる。
荷室容量はどちらも132ℓ。
クーペはカレラSホイール、カブリオレはRSスパイダー・デザイン・ホイールを履いていた。

ウェット・モードの効用

(渡辺)ポルシェが具体的に何をやったためにこんなに良くなったのかを、試乗しながらずっと考えていました。RRはスポーツカーのレイアウトとして決して理想的なものではない。それを重々承知の上でポルシェはずっとRRをつくってきた。その連綿と続くRRづくりの実績と経験値から進化した延長線上に992の乗りやすさがあるとしか言いようがない。
(村上)ポルシェ自身だって何度もRRを止めたいと考えていたわけでしょ。それでもファンの声もあって続けているうちにRRの問題点が克服できるようになったのは、電子制御の進化がとても大きいと思います。996あたりで初めて電子制御が入ってきた時には、介入されるとイヤな感じが少しあった。でも、いまの電子制御はイヤな感じどころか、介入されていることすら分からないくらいにうまくやってくれる。

(渡辺)ああいうものは基本的にサプライヤーは同じで、ソフトの部分をメーカーがチューニングするのでしょうが、ポルシェの場合は運転好きが乗った時に違和感を感じないセッティングになっている。で、ああ、これを作ったのは運転好きだなとすぐ分かる。逆にあからさまに介入してくるメーカーも結構ありますよね。
(村上)介入を分からせることによって、いま危ない状態にあるとドライバーに知らせるメーカーもある。でも、ポルシェは基本的にドライバーを信頼している。しかし、ちゃんと黒子のように後ろに控えていて、何かある時にはすぐに手助けしてくれる。今回の992型では、ウェット・モードが装備されたのがその象徴だと思いますね。昨日、大雨の中で乗った時に、ウェット・モードにしろという指示が出るのを初めて見て、なるほどこれかと思いました。インパネにそれと同時に、お前のドライビング・スタイルを変えろという文字が出るのに驚いた。ウェット・モードの本質がどこにあるかというと、何か起こる前に、ドライバー自身ではできないこと、たとえば4つのブレーキを別々に効かせるとか、変速機を次のギアに入れる準備をするとか、先回りしてやってくれる。

(渡辺)そもそも、911はクルマとのコミュニケーションが実にわかりやすくできている。たとえば、コーナリングでリアがもう少しでブレークしそうな時に、クルマの方からこのままだと滑っちゃうよ、と問いかけるような間があるんです。何かドライバーが適正でないことをした時に、必ず、この先あんたがやるか、こっちで制御するかどうする、と問いかけてくるような感じがある。それが今度のウェット・モードで、まさに文字とワーニングで出てきたんで、ああ、やっぱりそうかと思った。
(村上)あの時、相当な雨が降っていましたが、実はノーマル・モードでもクルマのデキが良すぎて、そんなに滑る感じもしなかった。しかし、ウェット・モードにすると、さらにきめ細かな制御で、もはや完璧にコントロールしてくれる感じがした。

(渡辺)ポルシェに怒られるかもしれないけど、僕はもうこれはカレラ4はいらないんじゃない、と思った。
(村上)僕は新しいカレラ4Sにも試乗会で乗ったんです。実はもともと4WD好きで、997までは走行安定性だけじゃなく、4WDモデルのちょっとおっとりした感じのハンドリングが好ましいと思っていました。それが991が出た時に劇的にスタビリティが上がって、これはもうどちらでも同じだなと思って、それなら軽い後輪駆動の方がいいと思うようになった。ましてやこの992型に至っては、後輪駆動でまったく不安を感じるところはない。わざとやらない限り1㎜も滑らないのではないかというくらい安定している。
(渡辺)これなら安心して911本来のRRの走りを楽しめると思います。そういえば、カブリオレの進化も凄かったですね。あれだけ開口部が大きいのに、ボディ剛性が緩いと感じることはなかった。ボタンひとつで出てくるウィンドディフレクターのおかげで風仕舞いも文句なし。運動性能でもクーペに見劣りしなかった。

進化の軸と乗り味の軸

(村上)これまでずっと、992型はより乗りやすくなったという話をしてきましたが、もうひとつの特徴はその一方で、ワイルドになったことにあるんじゃないかと思っているんです。実はデザイナーから992型のデザイン・テーマのひとつは、直線を使って男っぽい感じを出すことにあったと聞いていた。なるほどな、と思ったのは乗った時で、エンジンを掛けた瞬間にまさに荒々しい音が響きわたったのには驚かされました。
(渡辺)エンジン音の耳への届き方が明らかに前よりダイレクトになっている。エンジンの存在感を知らせるように演出していると思いました。
(村上)991後期型でターボが付いてエンジンが静かになり、荒々しさが減っていた。それに対する、アンチテーゼの面があると思う。ステアリングの切り始めのゲインも大きくなっているし、遊びも減っている。
(渡辺)今回の試乗車には後輪操舵もついていたし、PDCC(電子制御のシャシー・コントロール)も付いていましたね。あれが付いていないとどんな感じなんでしょうかね。
(村上)素のモデルには乗ったことがないのでわかりませんが、ステアリングのギア比は後輪操舵なしで10%、ありで6%速くなっているそうですから、いずれにせよ、よりスポーティ度を高めているのは間違いない。
(渡辺)ところで、僕はいつもポルシェの新型が出ると思うのですが、みんな〝最新が最良〟と言うでしょ。でも、ちょっとひねくれた言い方をすると、ポルシェの面白さは、最新が最良とは限らないことにあるのではないかと思うんです。事実、GT3は今でも996が一番いいと言う人がいるし、エンジンは空冷がいいと言う人もたくさんいる。そうなると、必ずしも最新が最良というわけではない。古いモデルがいいなんてクルマってそんなにないでしょう。

(村上)ポルシェはずっとブレることなく正常進化を続けてきた。その軸で見ると、最新が最良なんですね。だけど、その一方で、その時代その時代にものすごく濃い味がある。そっちで考えると、オレはあの時代のあれがいいという人が出てくる。
(渡辺)それで年月を経てから再評価されたりするわけです。996GT3なんて、今になってまた値段が上がっているんでしょ。
(村上)930や964だってひと昔前よりずっと高い。結局、機械としての進化の軸と、時代を反映した乗り味の軸が、縦軸と横軸みたいになっている。そのふたつの軸が織りなす織物がポルシェなのだと思います。
(渡辺)これだけ992型が素晴らしいものになっているのを知ると、逆に自然吸気最後の991前期型にもう一度乗ってみたいという気持ちが芽生えてくる。やがて、911に電気モーターが載せられる時代になったら、今度はあのターボ時代の992型にもう一度乗りたいよね、なんてことになるかも知れない。
(村上)そこまで計算してポルシェが新型を開発しているとしたら、最新の電子制御技術みたいに凄い。さて、最後に992型に何か不満はありましたか。僕は回転計を残してすべて液晶表示になった5連メーターが、径を小さくしたステアリングに隠れて、真ん中の3つしか見えないのが気になった。計器が見えないなんて。
(渡辺)僕がちょっと不満に思ったのは、村上さんは911の民主化が進んだと言ったけど、価格についてはあまり民主化されていないこと。せっかく民主化運動が盛んになっているのに民衆がそれに参加できない。ポルシェの魅力のひとつはずっと価格を超えた性能にあった。もう少し手の届く値段にして欲しいですね。
(村上)カレラSクーペで1666万円! まさにおっしゃる通りです。

話す人=渡辺慎太郎+村上 政(ENGINE編集長) 写真=アヒム・ハルトマン

911 カレラS クーペ 

  • 駆動方式 エンジン・リア縦置き後輪駆動 
  • 全長×全幅×全高 4519×1852×1300㎜ 
  • ホイールベース 2450㎜ 
  • 車両重量(DIN) 1515㎏ 
  • エンジン形式 直噴水平対向6気筒DOHCツイン・ターボ 
  • 排気量 2981cc 
  • ボア×ストローク 91.0×76.4㎜ 
  • 最高出力 450ps/6500rpm 
  • 最大トルク 54.0kgm/2300-5000rpm 
  • トランスミッション 8段自動マニュアル(PDK) 
  • サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル 
  • サスペンション(後) マルチリンク/コイル 
  • ブレーキ (前後)通気冷却式ディスク 
  • タイヤ (前)245/35ZR20、(後)305/30ZR21 
  • 車両本体価格(税込) 1666万円 

911 カレラS カブリオレ

  • 駆動方式 エンジン・リア縦置き後輪駆動 
  • 全長×全幅×全高 4519×1852×1299㎜
  • ホイールベース 2450㎜ 
  • 車両重量(DIN)1585㎏
  • エンジン形式 直噴水平対向6気筒DOHCツイン・ターボ 
  • 排気量 2981cc 
  • ボア×ストローク 91.0×76.4㎜ 
  • 最高出力 450ps/6500rpm
  • 最大トルク  54.0kgm/2300-5000rpm 
  • トランスミッション 8段自動マニュアル(PDK)
  • サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル 
  • サスペンション(後) マルチリンク/コイル 
  • ブレーキ  (前後)通気冷却式ディスク
  • タイヤ (前)245/35ZR20、(後)305/30ZR21
  • 車両本体価格(税込) 1891万円

 

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