ENGINE WEB

PLAYING 2019.6.19 

100の要望から生まれた家。大きな窓と太い梁がつくる大空間。/クルマと暮らす23

まるで絵本か漫画に出てくるような、三角屋根に窓のある家。これが中身はあっと驚く広々リビングと光に満ちていた。

若手建築家と作る

「有名な建築家の先生に『作品』をお願いするのもひとつの選択肢でしょう。ですが、これから活躍する若い建築家と一緒に、家を作り上げていくのも選択肢です。僕は後者を選びました」そう話すのは、高井誠さん(38)。オフィスの設計・構築マネジメントを行っている会社員だ。4年前、ある現場で、久保都島建築設計事務所を主宰する、久保秀朗さんと都島有美さんに出会った。気が合ったうえ、デザインのスタイルも好みである。3年後、高井さんは彼らに自分の家の設計を託した。

久保さんも都島さんも、それぞれ名前の知られた建築家の下から独立し、公共施設の設計で頭角を現してきた、夫婦で活動する注目の若手建築家だ。ところが独立後は、新築の戸建て住宅を手掛けるのは初めての経験。にもかかわらず高井さんは、「それまで充分な経験を積んでいるので、気にならなかった」と話す。そして出来上がった高井邸は、相当な意欲作となった。

漫画の家のような、シンプルでカワイイ外観の高井邸。2.4m四方の巨大な窓ふたつは、1階と2階の間の高さにあり、1階で生活する姿が表通りから見えることは無い。

窓の位置がポイント

まずこの家は、漫画に描いたような、誰もが想像する「家」の形をしている。窓のサイズや位置を見ると一見、平屋のようだ。しかし巨大な窓は、1階と2階の中間に位置している。この窓の位置とサイズで、気になる近隣からの視線を遮りつつ、できるだけ太陽の光を室内に取り込む構造だ。狭い敷地に建つ都市住宅の問題を、個性的な外観で解決したところに、新進気鋭の建築家の大胆さが感じられる。

そもそも高井さん夫婦が賃貸マンションで生活を始めたのは、転勤で東京勤務となったため。元々家を所有する意欲は高かった。そして生活して親しみを覚えるようになった練馬で土地を探し、見つけたのが建売住宅が建つ予定だった今の土地だ。1週間だけ返答を待ってもらい、慌てて連絡をしたのが久保さんたちの事務所である。久保さんは、90㎡の土地があれば、凡そどのような家が建つかを提示。それを確認したうえで、高井さんはこの土地を手に入れた。もちろん、仮提案の中に車庫が含まれていたのは言うまでもない。

週末はドライブに

高井さんは、生まれも育ちも三重県鈴鹿市。そうした生い立ちもあって、F1もクルマも好きだ。クルマがあって当然の生活を送ってきた。最初のクルマはMTの日産スカイライン(R34)。家族が増えてからは、あまり大きくない、カワイイクルマを選び、フィアット・グランデプントに。「小さなクルマから、元気な子供3人が次々に降りてきて、よく驚かれた」とか。家を手に入れる前にプジョー2008(2015年型)に乗り換えている。「休みの日は他の交通手段に頼るのではなく、自分でクルマを運転してどこかに行きたい」と考える高井さんにとって、ドライブは週末の大事な楽しみ。買い物や近くのお出かけが中心であるが、運転は楽しく、良い気分転換になっている。

さて、建築家に住宅の設計を依頼した場合、設計に1年、施工に1年で、合計2年で住めるようになるのが普通のペースだ。ところが、工期が短縮できれば、コスト削減となる。そこで高井さんは、1年で入居できるように、進行管理を積極的に手伝った。日頃、オフィスの設計や構築マネジメントを行っているプロだからできることだ。

南側の窓は、ガラスの張られていない大きな穴。天井の無い中庭に通じている。壁は、素材感のある仕上げが。

100の要望を提出

まず高井さん夫婦は、100ほどの希望を書いた「要件シート」を作成する。その中で最も重要な項目が、プライバシーと日当たりの確保だった。家の前は人通りが多いうえ、道路を挟んだ南側は商店で、絶えず店主が店先で番をしている。また、中庭も優先順位が高いものであった。こうした建て主の要望に対し、建築家は幾通りもの解決策を検討し、実際に百近い数の模型を作成。その中の最善の案が、この家となったのである。

そして最重要の課題を解決したのが、2.4×2.4mの大きな窓をふたつ、通行人の視線より高く、家の中が覗かれない位置に設置する案だ。東側ははめ殺しのガラス窓で、南はぽっかりと穴の開いた、中庭に通ずる大窓。この大きなガラス窓は、ビル用サッシの既製品だ。日差しの強い時は、ロールカーテンで遮ることもできる。しかも東側のお隣さんは、地下が防火水槽となった更地で、建物が建つ可能性は無い。これだけ大きな窓を設けても、隣家から覗かれる心配は無いのだ。そしてリビングの先の中庭は、空間を広く見せるだけでなく、家族に安らぎを与える場所となっている。

その他、要件シートにあったのは、「みんなの居る部屋を広く」「玄関からリビングを通って、個室に行く間取り」など。希望通り、一階は大きなリビングダイニングに。木造住宅にもかかわらず、太い梁のおかげで、天井高2.75mの柱のない大空間となった。ここから階段で2階に上がっていく間取りだ。

三人のお子さんが共同で使っている2階の子供部屋も、大きなひと間。中庭と吹き抜けに面した、大きな開口部がある明るい部屋だ。吹き抜けを通して、1階から2階の気配が感じられるのも、高井さんたちが希望したことである。一方、夫婦の寝室などは最小限のサイズ。収納にも扉は設けず、ロールスクリーンとした。キッチンのシェルフも、扉の無い見せる収納で、コスト削減を徹底している。
 

1階のリビングダイニングは、柱が無い大空間。太い2本の梁が効いており、天井は、2.75mの高さが。木材が張られた壁は中庭まで続き、空間的な広がりが感じられる。中庭の半分は木製のデッキを敷き、残りのスペースにシンボルツリーとなるオリーブの木を植えた。風呂上がりの中庭は、最高に気持ちいいと高井さん。ダイニングテーブルは、新婚時代から使っているUSM社のもの。
キッチンキャビネットなどは、扉の無い見せる収納。
専門書が並ぶ本棚には、F1のミニカーが何台も。久保都島建築設計事務所の久保さんは、幾何学的意匠と、物理学などを駆使した理論構築が得意。一方、都島さんが得意とするのは、素材感を活かした表現。二人の異なる個性の組み合わせで、高井邸は魅力的なものとなった。
子供たちは、2階にある大きな子供部屋を、共同で使っている。勉強机は、吹き抜けに面した作り付けの長いカウンター。子供それぞれに、キャスター付きのキャビネットが与えられている。
吹き抜けに面した廊下を使い、夫婦の書斎スペースも用意した。

家づくりは楽しい

段取り上手な高井さんと、熱心な久保さんたちの頑張り、そしてお互いがプロであるからこその早い決断で、家は予定通り1年で完成した。しかも高井さんたちの希望要件を満たした、若い建築家ならではの、新しい提案に満ちた家である。久保さん都島さんの二人にとって、この家はさらなる飛躍の機会になったのではなかろうか。そして何より、この家で遊んでいるお子さんたちの、楽しそうな姿が印象に残った。

「戸建て住宅を建てるのはいいですね。仕事の面でも勉強になりましたが、それ以上に楽しいものでした。できたらもう一回、家を建てる機会があればいいですね」高井さんは満足そうに呟いた。

■建築家:久保秀朗 1982年東京生まれ。東京大学大学院修了。吉村靖孝建築設計事務所を経て、2011年に久保都島建築設計事務所を共同設立。都島有美 1982年愛知県生まれ。中村拓志&NAP建築設計事務所勤務を経て独立。二人は公私とものパートナー。まるほん旅館風呂小屋は出世作である。コンペで勝ち取った5階建ての銭湯スパが、両国にオープンした。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2018年3月号)

ポルシェ924と日産リーフのある家。ガラスで囲われた広々二世帯住宅。/クルマと暮らす24

令和時代の欲しいクルマ大発表!! 2019年版エンジン・ホットランキング100

試乗記ポルシェ911♯01 編集部で2005年式「ポルシェ911カレラ4S」を買う。

PLAYING トップへ