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PLAYING 2019.6.12 

窓がない、と思ったら大間違い。中の窓で光と風が抜ける横浜の家。/クルマと暮らす21

白壁に囲まれ、まるで窓がないように見える宮原邸。一見しただけではこの家の面白さはわからない。家のなかに家がある、そのアイディアに脱帽。

実は窓が多い家

「近所では『窓が無い家』と言われているそうですが、中にはしっかり窓がありますよ」と笑う、パイロットの宮原正和(41)さん一家。たしかに家の正面には窓が無い。ここは横浜市の中でも人気の高い住宅街の一角。隣家との距離は近く、家の前の道も狭い。そんな場所にあって、高さ10m弱の何もない白い壁の家は、相当なインパクトがある。

そもそも宮原さんの希望していたのは、個性的な家とかカッコいい家ではない。「形よりも素材重視でお願いしました。木の感じが好きで、床はフローリングがいい」というのが、基本姿勢だ。そうした要望を請け、この家を設計したのは、ひねりの効いた発想に定評がある中佐昭夫さん。今回のプランも、宮原さん曰く「見たことのない提案で面白かったから」選んだと言う通り、相当にユニークである。もちろん建て主の職業を考えれば、心身ともに休まる家であるのは優先事項だろう。家族が暮らしやすい配慮も欠かせない。とはいえ、ワクワクする要素が無い家は、暮らしていてつまらない。宮原さんは、そうした選択をしたのだろう。

右側は玄関に通じる入口。玄関の一段目の三角形の階段と同じ形の吹き抜けが上まで続いている。吹き抜けを見上げれば、天井は空で、2・3階に大きな窓が多数設けられているのが分かるだろう。
3階の子供部屋から2階のリビングを望む。レモンの鉢植えが実をつけるほど、2階のバルコニーには太陽の光が入ってくる。

間取りを簡単に説明すれば、建蔽率が許す目いっぱいの大きさに屋根と窓の無い正方形の白い家が建っていて、その内側に少し小さな正方形の家が、30度ほど向きを違えて接しているのが基本構造(81頁平面図参照)。この二つの建物の間に生まれた三角形のギャップから、内側の家に光や風が入ってくる仕組みだ。外側に窓が無い分、内側の家には窓が多く、結果として「普通の家よりも多くの窓があるのでは」と、建築家は説明する。

部屋からクルマが見える

正面に窓が無いので分かりにくいが、この家は3階建てだ。ガレージにはシャッターが備わり、右側の奥が玄関になっている。入口の上部は吹き抜けになっており、上から光が入ってくる造りだ。その他1階にあるのは、主寝室と水回り。寝室の大きなガラス越しにはクルマが見える。こうしたのは、建築家の手掛けた事例として中佐さんの自邸を見学して感動し、同じようにした結果。毎朝目覚めると、宮原さんは電動リモコンでガレージのシャッターを開けるのが日課となっている。外光が、ガレージや寝室、廊下にまで入ってくると、「これで一日が始動するスイッチが入る」と感じるそうだ。

そしてガレージは、少し余裕のあるサイズ。そこで、壁面上部に有孔ボードを貼って、子供たちのスポーツ用品などを掛けるスペースとした。またクルマ奥の階段下の空間を利用して机を置き、ちょっとした作業ができる場所に。書斎としても使えるよう、寒さや換気の対策も施されている。

ベッドルームの窓ごしにガレージ内の愛車が見える間取り。ガレージ内は、クルマに向かって右手が全面ガラス窓。階段脇の廊下はガラスの引き戸で、家の中からもガレージに行き来できる。ガレージ奥の一角は、物置+書斎。
バスルームは広くシンプルで寛げる空間。一階の玄関脇に設置したガス暖房器のお陰で、3階まで暖気が上がり、冬でも風呂場や廊下は暖か。

2階は、「家では殆どリビングルームに居るので、一間続きの大きな空間」を希望した宮原さんの想いを実現させたもの。南東の角は吹き抜けとなっていて天井が高く、窓の外は白い壁の内側のバルコニー。視線が抜け、広さを感じる作りとなっている。事前に家具の置く位置まで考慮されているので、スペースに無駄がなく、ことさら空間に余裕が感じられる。キッチンはアイランド型で、部屋全体を見渡せるプラン。床に木を用いた、温かみのある落ち着く空間となっている。そして3階は、子供たちの部屋がふたつと、かなり広い三角形の洗面所の構成だ。 

手前のSANWAカンパニーのキッチンに合わせて奥の棚を造作。把手は、奥様の背丈に合わせた。
吹き抜けに面した3階の子供部屋は、将来仕切ることも可能。

光溢れる空間

隣家が迫る86㎡の土地に建つにもかかわらず、宮原邸のリビングには、太陽の光が溢れている。外観から想像するより、内部ははるかに明るい。また、外見上窓が無いお陰で、プライバシーが守られている家でもある。数多い窓にはカーテンを付けていないが、「全くそれは気にならない。逆に太陽が昇ると目が覚め、早起きになった」と話す。

ところで、宮原さん夫婦は横浜出身者ではない。縁あって、新婚時代は、ベイブリッジが見える高層マンションに住んでいた。ところが子供ができ、コミュニティを身近に感じる住宅街での子育てを望むように。そこで住まい方を変更することにした。だが、すぐに家を建てるのではなく、どの街に住むかしっかり計画を立てたのが興味深い。マンションを手放すと、まず自分たちが気になっていたこの街で、賃貸物件に住んでみた。そして街を気に入ってから、土地を手に入れたのである。

一方、カー・ライフといえば、乗ってきたクルマのカタログや、ノベルティとして貰ったミニカーなどを今でも大事に保管しているクルマ好きだ。最初に自分のクルマとなったのは、マツダRX-8。そしてジープ系のクルマが好きで、タワー・マンション時代にチェロキーに。だが、狭い道の多いこの街に移ってからは、奥さんが運転しやすいようにと、フォルクスワーゲン・ゴルフに乗り換えた。このクルマで奥様は練習を重ね、サッカー・クラブに通うお子さんたちの送迎も行っている。 

家の正面に窓のない宮原邸。歩道との間は砂利を敷いた。来客があれば駐車できるうえ、洗車も可能な便利なスペースになっている。

キャンプに相応しいクルマは

「ゴルフは安全性、機能、走り等本当に申し分ないクルマです。ところがキャンプデビューしてから、ゴルフでキャンプ場に行くことに違和感を覚えるようになったんです」と宮原さんは話す。特にこの家に移ってからは、毎朝目覚める毎に、ガラス越しに見えるゴルフの姿に「違う」と感じていたそうだ。最後は、言葉に出さずとも気持ちを察していた奥様の理解もあり、去年の初夏にジープ・コンパス(2017年型)に乗り換えた。「ちょうどよいサイズ」(幅はゴルフとほぼ同じ)で、運転しやすいコンパスとの新生活を宮原家は楽しみ始めたばかり。今後はこの家同様、お子さんたちと多くの思い出を作っていくことだろう。もっとも準備のいい宮原さん。ずっと先のことまで考え始めている。「思うんです。20年後、子供たちが巣立ったら、また背の低いスポーツカーに乗れたらいいだろうなと」。寝室から愛車が見える家ができて、宮原さんのクルマ好きは加速したのかもしれない。

■建築家:中佐昭夫 1971年広島県生まれ。早稲田大学大学院修了。山本理顕設計工場勤務を経て、広島時代の同窓、中薗哲也と共同で事務所を設立。写真は代表作のひとつである自邸。保育園も多く手掛け、しぜんの国保育園では、グッドデザイン賞の他多くの賞を受賞。愛車はアルファロメオ75

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

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