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CAR 2019.6.10 

エンジン中古車探検隊が行く! アストン・マーティンの希少車、シグネットを探せ。

中古車探検隊を率いる渡辺敏史氏が、どうにも最近気になるという1台を求めて、一行は東京都練馬区にある少々個性的なクルマばかりを扱う欧州車専門店を訪れた。

究極のミニマリズム車に出会う

(ウエダ)2019年7月号のエンジンHOT100ではアルピーヌA110が圧倒的支持を集めました。えーと、ナベさんは6位に推してますね。
(ワタナベ)確かに素通りはできないクルマだけど、その支持率はすごいね。でも、A110の見事な成り立ちをみるにつけ、ロードスターってつくづく凄いなぁと思わない?
(ウエダ)小さい安いクルマでも、あんなに濃密な世界観をみせてくれるんですからねぇ。日本の誇りです。
(ワタナベ)これだけ馬力バブルが続くと、最小構成でどれだけ楽しいのかってことの方が尊く思えてくる。
(ウエダ)ミニマリズム的発想って基本的には都市生活者との相性がいいと思うんですが、都市に住む人ってかえってそこに至れないんですよね。
(アライ)同じ維持費を払うなら、許される中で一番でかいやつをって、それは人間の基本でしょう。
(ワタナベ)わかる。飲み放題と聞くや血眼になる心理もそれだよね。
(ウエダ)そんな皆様には申し訳ないのですが、今回は物理的にも思考的にもミニマリズムの極致でないかというクルマを用意しまして……。

(ワタナベ)おっ、ここは以前初代BMW8シリーズの取材でお邪魔したマーズさんじゃないの。場所が変わって随分広々としたショウルームになったんだね。
(アライ)展示スペースの床面が人工芝っていうのも新しいですね。子供連れてきたらずっとゴロゴロしてそうですよ、ここ。
(ウエダ)こちらマーズさんは以前、8シリーズの取材でもお世話になった通りで、ちょっと癖ある希少車を常々仕入れられているんですが、今回取り上げるこのモデルもタマさえあれば捕まえるという姿勢で、既に7~8台は販売されてきたそうで。

ベースはiQ。実はiQとは大違い!?

(ワタナベ)おおー、これシグネットじゃない。
(ウエダ)しかも2台。そして左ハンドル。こういう並びが日本で撮られることは滅多にないのではと。
(アライ)そもそもシグネットって何台作られて何台輸入されたんだろう。
(ワタナベ)正確な数字がないけど、飛び交う情報を総合するに、少なめの三桁って感じっぽいね。
(ウエダ)基本的には受注生産なんですが、世界限定50台でローンチ・エディションというのがあったようです。色は白と黒から選べて、ビル・アンバーグの専用ラゲッジ・セットが付属されていたとか。
(アライ)これ、ベースはトヨタiQでしたよね。1.3ℓの仕様で。
(ワタナベ)そう。CAFE規制の縛りがきつくなっていく中、アストンもCO2排出量の平均値を下げなければならないという課題がぶら下がったところに、元CEOのウルリッヒ・ベッツが当時ニュル24時間参戦でピットが隣り合わせだったトヨタの豊田章男社長に供給の話を持ちかけたと言われているよね。
(アライ)欧州拠点を通じて完成車を供給するという話はトヨタからも発表されているくらいですから、それなりの規模の話だったと。

(ウエダ)これ、完成車を一度英国でバラして組み替えてるんですよね。
(ワタナベ)中はほぼ全部引っ剥がして革やらアルカンターラやら巻き直しでしょ。センター・コンソールやドア・ライナーなんかは形状も違うから新たに部品起こして……。
(アライ)外板類も流用なのって、ルーフとクォーター・パネルくらいでしょうか。フロント・フェンダーも穴が開いてるし、リア・ゲートもアストンのエンブレムに合わせてエンボス加工がやり直されてる。
(ウエダ)性能面でも遮音材の追加やエンジン・マウントの変更など、上質感を高めるために手が加えられているようで、意外と凝ってるんです。
(ワタナベ)そもそもiQ自体が、このパッケージを成立させるためにエアコンの冷熱ユニットを中央配置できるほど小さくしたり、デフ位置を変えて車軸を前に出したり、涙ぐましい努力を重ねてるんだよ。

ルーフとリア・フェンダーだけはiQのままだが、凸型グリルとエンブレムがはまるように加工されたバンパーはもちろんのこと、ライト横の小さなグリル、アストン・マーティンのお約束であるサイドのエア・ダクト付きのフェンダーとそれに続くドアのモール(写真上)、U字型に見えるよう加工されたテール・ランプおよびリア・ハッチ……とエクステリアの変更カ所も膨大。iQは2008年の国内発表時は1ℓ3気筒のみの設定だったが、1年後に1.3ℓ4気筒が追加。シグネットはこの94psを発揮する上位モデルをベースにしている(写真下)。

■アストン・マーティン・シグネット・ローンチ・エディション
2012年型 スノーホワイトパール/タン&グレーレザー 走行1.3万㎞ 左ハンドル 検2020年3月 修復歴無 社外ナビ シートヒーター 売約済

■アストン・マーティン・シグネット
2013年型 タングステン・シルバー/黒レザー 走行3万㎞ 左ハンドル 検2020年4月 ディーラー車 修復歴無 社外ナビ シートヒーター 530万円

時代が早すぎた

(アライ)でも結局はウケなかった。
(ワタナベ)結果的に生活道路や駐車環境が厳しいユーザーがターゲットとなるiQに目をつけたシグネットの狙いは悪くなかったと思う。東京でも都心部でスマート・ブラバスがウケたりした時ってあったじゃない。
(アライ)こっちは大人3人&子供1人は乗れるという利がありますね。
(ワタナベ)1.3ℓの方は4気筒だから1ℓの3気筒に比べると振動も少なくて高速も楽だし、スタビリティもしっかり確保されてる。そしてこのホイールベースだから小回りは超絶に効くしハンドリングも面白い。
(ウエダ)ここにきて流通価格が新車並みになっているのは、国内だけでなく海外からの引き合いも多いからなんですって。
(アライ)この内装の手の込みようをみるにつけ、あながち値札は高いとはいえないかもしれませんね。
(ワタナベ)結局スマートも吉利とダイムラーの折半会社になってEVを開発することになりそうだし、iQの車台も中国でEV化されて販売することになるらしいし、こういった超小型車的なコンセプト自体はCASE&MaaSでむしろ活きてくるんだろうね。シェアリングとか。
(ウエダ)よくある結論ではありますが、iQもシグネットも早すぎたと。
(ワタナベ)まぁでも、数が限られたから先々まで大事にされる可能性が高まったともいえるのかもね。

フルオリジナルの1992年型964ターボや、内外装&機関仕上げ済みの1979年型ジャガー XJ-6のロング・ホイールベース・モデルなどなど渡辺隊長好みの品揃えのせいもあって、藤森徹也店長(写真上・右)へのシグネットの取材は脱線してばかり。

 ■マーズ(Mars) 東京都練馬区富士見台1-17-3 TOビル1F TEL:03-5933-9939

http://www.mars--inc.jp

話す人=渡辺敏史+新井一樹(ENGINE編集部)+上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=山田真人

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