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PLAYING 2019.5.5 

不便という贅沢。筑波山を望むガラスの家と古い車を楽しむ/クルマと暮らす16

筑波の山々を望む田園地帯に建つ平出邸。その名も「PICNIC」と命名された全面ガラス張りの建物は、まるで自然のなかに解き放たれているようだ。

建築家との出会いで古い車好きに

目の前に田んぼが広がり、その向こうに筑波の山々が見える絶景地に建つ平出斉(43歳)さんたちのモダンな家。ここ茨城県つくば市は、平出さん夫婦が学生時代に出会った町である。この思い出深い土地で子育てをしようと、1年半ほどかけて見つけた場所だ。職場のある東京まで時間はかかるが、この眺望は何物にも代えがたいものがある。

2軒の家が並んで建っていたひな壇の土地を手に入れ、駐車場・階段などの擁壁はそのまま利用した。そのため、道路から家に上る階段が2本ある。
家は、3本の屋根が南北に延び、その間を庭と居室が繰り返す構造。筑波の山を望む屋根の下のテラススペースが、平出さんのお気に入りの場所だ。

未来的な家のデザインに対して、車庫に納まっているのは、対照的なフォルクス・ワーゲン・タイプⅡ(1970年型)と、トヨタ・ランドクルーザー40系(1982年型)の古いクルマ。この2台を選んだのは、設計をお願いした、建築家の前田紀貞さんの影響が大きい。20代にドリフトにはまった平出さんは、180SX、シルビア、旧86、などのチューニングされたクルマに乗ってきた。サーキット走行も行う走り屋で、年に200本のタイヤを履きつぶしたことも。一方、クルマとバイクが好きな建築家の前田さんも、多くの自動車に乗ってきている。平出邸を設計した当時の営業車(?)は、シボレー・インパラのオープンカー。そんなクルマ好きの二人が出会い、平出さんの好みは変わっていった。ドリフトから、古いクルマに関心が移っていったのだ。

不便が思い出になる

9年前、この家が完成して平出さんが手に入れたのは、前田さんと同じシボレー・インパラのオープン。そのうえ、二輪の大型免許まで取得し(奥様も)、前田さんと同じナナハンに乗るように。今では、バイクは趣味のひとつとなっている。やがて平出さんの関心は、キャンプに向かう。今のフォルクス・ワーゲン・タイプⅡに乗るようになったのは、家族で旅行に行くため。車中泊ができるように改造が施されており、日本中随分と旅をしてきた。整備や小さな修理も、かなりの部分を自分自身で、時には友人たちの手を借りて行っている。そうすることで、より愛着がわくのだそうだ。「けして便利なクルマではないし、遅いうえに旅先で故障することもあります。お洒落ではなく、旅のひとつひとつの出来事が記憶に深く刻み込まれるのでタイプⅡが好き」と言う。

連休にスキー旅行を予定していた時の話。いざ出発という時点で、タイプⅡのガソリンが全て漏れ出ていたことが。その時、息子の大翔君も奥様の美紀さんも、文句を言うことなく修理を手伝ってくれたそうだ。「日頃から便利なクルマに乗っていたら癇癪を起していたかもしれませんが、古いクルマに乗るようになって、トラブルで動じなくなりました。この時の、家族で協力してアクシデントを乗り越えたことは、良い思い出になっています」今は、テントなどを積んで長期間のキャンプの旅に出るため、ランドクルーザーが所有車に加わっている。

クルマとの関わり方から、平出さんの人柄を、「乗りやすい、壊れない、を優先するのではなく、トラブルに対応することを人生において意味があると考える強靭な精神の持ち主」と読み取った建築家の前田さん。設計したのは、普通の人には少々難易度が高いかもしれないが、この家族なら日々の生活が記憶に残り、楽しく暮らしていける家だ。壁の多くがガラス張りであるだけではない。敷地の南から北の端まで、3本の屋根が走るプランで、部屋と屋外が交互に繰り返される家である。どの部屋も眺めが良いうえ、屋根の下の一部は屋外になっていて、家の中と外が曖昧な構造だ。居室部はクランクしており、一部は壁で遮られているので、リビングダイニングから、遠くの山々や空、主寝室やホビールームは見えるが、バスルームや子供部屋の様子は直接分からない。吟味された家具が置かれ、余計なものが無いミニマルなインテリアは、海外ドラマに登場する住宅のようだ。

リビングのソファや主寝室の寝椅子はカッシーナ。

キッチンと一体のテーブルも、キッチン横の収納の扉も鏡面仕上げで、外の景色が映り、より広がりが感じられる。鏡面の扉は「全身が映るので、姿見の必要がない」と、奥様。相当に個性的な間取りだが、「ママ友たちが遊びに来た時は、お母さんたちは家の中でお喋りをし、子供たちは屋外のテラスで遊ぶので、それぞれが干渉することなく楽しめる」そうだ。

外部の景色が映る鏡面仕上げのキッチン。楝と楝の間に水盤が設けられており、夏は涼やか。テラスの壁にプロジェクターを投影し、仲間で集まってテレビを観ることも。
ナナハンのカワサキ750RS・Z2(1973年型)の他に、スーパーカブC105(1963年)、スーパーカブC70(1971年)と3台の古いバイクを所有。

毎日がピクニック気分

筑波山が見える、アウトドア用の家具が置かれた玄関前のテラスは、平出さんお気に入りのスペース。ここで日の出を眺めながら珈琲を楽しんだり、星空を見上げて煙草をふかしたり。訪ねて来たクルマ仲間と、冬はランタンで暖をとりながら自動車談義に花を咲かせるのもここだ。季節の良い時期は、テラスにテントを張って寝ることもある。そう、建築家が目指したのは、日々の生活がピクニックになるような家なのだ。

もっともガラス窓が多いので、夏は暑く冬は寒い。それを「この家に住み始めて、より季節がダイレクトに感じられるようになった」、と前向きに捉える平出さん。ガラスの掃除もさぞや大変だろうと思いきや、「高圧洗浄機を使えば簡単なので、考えたこともない」そうだ。それは、クルマに対して「ちょっと不便なくらいがちょうどいいんです」という、建て主のスタンスに通じるところである。この家で暮らす平出さん一家には、今後も記憶に残る楽しい出来事が数多く起こるに違いない。

■建築家:前田紀貞、1960年東京生まれ。京都大学卒業。大成建設勤務を経て独立。個性あふれる意匠の建築で知られているが、そうした目に見える形よりも、住んだ時に感じる空気を作り出すことを主眼に置いて設計。現在、安田女子大で教鞭をふるう他、自身の教育機関や講演会などを通じて後進の指導にもあたっている。 

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

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