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PLAYING 2019.4.26 

大きな白壁の家。アクセントは、青いシェルビー・コブラ/クルマと暮らす13

新築時、ご近所からは病院かレストラン?と話題になったTさんの家。ガレージにコブラが入ったときはママ友から奥様が質問攻めにあった。

ここは民家?

駅からはそう離れていないものの、付近にはまだ畑も残っている東京三鷹市の静かな住宅街。その一角に、築10年になるTさん(50歳・会社経営)たちの家は建っている。そうしたエリアにあって、この家は相当にモダンだ。通りからの眺めは、小さな窓がひとつあるだけの大きな白い壁と、車寄せの付いたガレージがあるのみ。しかも車寄せの脇には、季節の花が咲いている。

家の前に接する道が狭いこともあり採用した車寄せは、来客時の駐車スペースにもなる。頻繁に植え替えを行い、絶えず季節の花が咲いている前庭。ガレージ脇の玄関扉は、控えめな佇まい。

10年前、この建物が完成した際は、近所に住んでいる人たちが病院かレストランかと思ったのも納得だ。そんなTさんのもとに、去年の夏、シェルビー・コブラのレプリカ(スーパーフォーマンス・マークⅢ・2017年型)がやってきて、再びご近所さんの話題になっているという。T邸の天井を低く抑えた車庫にはシャッターが無くオープンになっているので、道行く人には否応なしに青いコブラが目に留まる。そのためTさんの奥様は、多くのママ友からクルマの名前を聞かれるそうだ。隣に停まっているポルシェ911カレラS(2013年型)は、クルマに興味のない女性でもブランド名は言い当てられるだろうが、コブラは相当に珍しい。しかもクラシック・カーのようでありながら、ただならぬオーラを放っているのだから、興味がわいて当然だろう。もっとも本当に気になっているのはママ友ではなく、そのご主人たちかもしれないが。モダンで合理的なドイツ生まれのポルシェ911と、1960年代に生まれたアメリカのマッスル・カーという対照的な組み合わせは、スポーツカーを2台持つうえで、理想のように思われる。さぞや熟考した末の決断と思いきや、「一目惚れ」と返ってきた。とあるデパートの入口脇に、幌もかけずバレット・パーキングで停められている姿を偶然目にして虜になったのだとか。Tさんが、この珍しいクルマを知っていたのは、定期購読をするなど長いこと小誌の愛読者だったことも大きいだろう。

日常にも使えるコブラ

日頃、クルマ好きの友人から古いクルマを勧められていたものの、整備を考えて二の足を踏んでいたTさん。しかし、レプリカの新車であればそうした心配も少ないだろうと決断した。実際、5ℓのⅤ8エンジンを積む現代のコブラは扱いやすいうえに信頼性も高く、近所のスーパーに出かけることも。週末、心地よく高速を流してその先の奥多摩の山道を駆け巡り、日帰り温泉に浸かって帰ってくるのがお気に入りのドライブ・コースになっている。

一方ポルシェ911は、通勤などの普段の足。根っからのクルマ好きなので、運転することで癒されているそうだ。今の911の前は、MTの911に10年乗った。ポルシェの後席は下の娘さんに丁度のサイズで、奥様と3人でのお出かけには重宝している。そして大学生になる上のお嬢さんをまじえ、家族でスキーなどに出かける際はアウディ A6アバントを使う。これがTさんの3台持ちカーライフだ。

ガレージ脇の玄関扉は、控えめな佇まい。
リビングダイニングは、十字型の吹き抜けのある広々とした空間。東南の角に配した中庭や、天井に設けたトップライトから外光が入り明るい。一方床は黒く、B&B ItaliaのソファやYチェアなど、吟味された家具が映える。

こうしたスポーツカーが並ぶガレージ・エリアに比べ、玄関のサイズや意匠は控え目で上品である。どこか茶室に招かれたような雰囲気だ。それがひとたび屋内に入ると、予想外の空間に驚かされる。設計を手掛けたのは、夫婦でケースデザインスタジオを主宰している建築家の横田典雄さんと川村紀子さん。建築のスタイルが好みだったうえに、「家を建てた経験のない者にとって、ウェブで紹介されていた依頼方法が明快で誠実なこと」が二人に設計を頼んだ大きな理由という。夫婦で仕事をしていて、娘さんがいるという家族構成や、年齢が近くて話しやすいことも後押しとなった。こうしてでき上ったのは、Tさんたちの希望した「明るく」「キッチンから家全体を見渡せる」「一体感がある」「快適な」家。中庭のBBQに人が集まり、奥様が希望したガーデニングを楽しめる家でもある。だが横田さんたちはそうした要望に応えるだけでなく、この家での生活がさらに居心地の良いものになるよう工夫を加えている。そこが建築家の腕の見せ所だ。T邸の最大の魅力は、なんといっても面積以上に広さを感じるものの、家族間の距離が近く思える空間構成だろう。デザイン上のハイライトは、柱が無い、十字型の吹き抜けのある、明るく大きなリビングダイニング。建築家によれば、「自分の真上でなく、斜め上が吹き抜けになっていると目線が届き、広がりや上の階との一体感が感じられる」という。

居心地のいい家

この演出のため、2階の平たい天井から、主寝室と子供部屋、水回りの三つの箱を吊り下げた構造が採用されている。太い鉄骨でしっかりと造られているので、吊るされた部屋が揺れる心配は無用。それぞれの部屋は吹き抜けで隔てられていて、独立性も高い。

螺旋階段は、玄関と居間の間のちょっとした目隠しにも。その上の階段ホールは、奥様が子供の頃から使っていたピアノを置くためのスペース。細部に住み手と建築家の美意識が表れている。

一方、箱はブリッジで結ばれており、2階に上がるために2か所階段があるので、家の中をぐるりと回遊できる、便利で無駄のない間取りでもある。そのうえブリッジの手摺はガラスで、2階の洗面所や寝室にも開口部を設けた。結果、1階にいても2階にいる家族の気配が感じられる。「それだからでしょう。次女が赤ちゃんだった頃、私が違う部屋に行っても後追いがありませんでした」と奥様は話す。広々として光が溢れ、時には心地よい風が抜けていく。T邸の暮らしは、人間だけでなく家族の一員となった2匹の猫たちも快適そうだった。それだけではない。T邸は、毎週学校が早く終わる日に、学校帰りの娘さんのお友達が集まる場所でもある。「女の子だけでなく、男の子もいますよ。少ない時で7、8名ですが、多い時は17人も。特に男子は喜んで、家の中を走り回ったり、頭から床にスライディングしたり」と、笑う。お洒落なインテリアの家に遊びに来た子供たちは、お行儀よくしているのではなく自由に楽しんでいるのだ。それは子供たちにとっても、居心地が良いからに他ならない。このクラスメイトの何十年後かの同窓会で、間違いなくこの家で遊んだことが話題になるだろう。そしておそらく、ガレージに停まっているコブラのことも。

■建築家:横田典雄 1967年大阪生まれ。川村紀子 1962年東京生まれ。夫婦の建築家ユニット。共に武蔵野美術大学を卒業し、建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した槇文彦の事務所に勤務。横田は大分県の風の丘葬祭場などを担当。川村も多くの公共建築に関わった。独立後は個人住宅、別荘を中心に設計。特に軽井沢エリアの別荘が多く、上品で端正なスタイルは定評がある。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2018年7月号)

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