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PLAYING 2019.3.20 

“難ありの土地”で成功。カングーとスーパーカブが似合う大屋根の家/クルマと暮らす10

ちょっと訳ありの土地を賢く手に入れた若い夫婦が建てた理想の家。2 0代でも家は建てられる。若者たちよ、もっと家づくりを楽しもう。

バイク党の建て主

通りからは大きな屋根と車庫しか見えない、会社員のBさん(28)たちのお宅。かなりインパクトのある姿をしている。このような外観になったのは、デザイン優先ではなく、この土地の厳しい法規制に対応するためというから驚きだ。

正面の石積みの部分と左手の壁は、50~60年前に造成された当時のもの。リビングのガラス戸を開けると、そこはバイク用ガレージ(上)。左がBさんのハンターカブCT110。中央が奥様のカワサキW400。

Bさん夫婦は、大のバイク好きである。業務用の乗り物が好きと言うご主人は、学生時代からのスーパーカブ党。カスタマイズを楽しんでいる。現在メインの1台は、郵便配達用のカブのハンドルに替えるなど、随所に変更が加えられたもの。400ccのバイクに乗っている奥さんは、Bさんの後ろに乗っているうちに興味を持ち、中型免許を取得。荷台に道具を積んで、夫婦で2台のバイクに跨り、キャンプツーリングに出かけることもある。そして車庫にはもう1台、改装中のカブが。一時期、借りた駐車場にバイクを5台も停めていたこともある。家を建てたのは、全てのバイクを屋根の下に納めるためでもあった。

家を設計したのは、友人の紹介で仲良くなった、建築事務所DOGを主宰する齋藤隆太郎さん。建て主同様に若いが、〝日本を代表する35歳以下の建築家〟にも選ばれた、注目の人物である。Bさんたちが齋藤さんにアドバイスを仰ぎながらみつけたのが、横浜らしい起伏に富んだ地形をひな壇型に造成した、日当たりのよい静かな住宅街のこの場所だ。

ちょっと訳アリの土地

もっとも、厳しい規制があるため何年も買い手がつかなかった土地でもある。50~60年前に区画整備された際、ひな壇を支える擁壁が登記されていないことが大きなネックとなっていたのだ。もし変更を加えるなら、多くの事務手続き(日数もかかる)と、相当の出費が不可欠となる。効率的に家を建てるなら、壁にも、右手にある昔造られた車庫(幅2・3m)にも手を触れないのが賢明だろう。しかも敷地の奥も高さ数メートルの擁壁となっており、壁から4mも離さないと家を建てられない。かかる条件のもと、この敷地ならどんな家が建つかを齋藤さんは提案。Bさんたちは確認したうえで、ハウスメーカーなどが手を出せないでいた土地を、有利な条件で手に入れた。

バイク好きな夫婦が新居に希望したのは、「リビングからバイクが見え、車庫と直接行き来できる家」。そこで建築家は、入口の奥を掘削してバイク用の駐車場とし、その上にリビングを配した。これで室内から車庫が見えるうえ、簡単に行き来できる位置関係となる。また、右手の車庫はクルマ用にそのまま残した。

この家に引っ越す際、バイク党だったBさんたちは初めて自分たちのクルマを手に入れている。お子さんを授かり、移動手段にクルマが加わったのだ。車種選択の基準は、まず車庫に入るサイズのうえ(屋根を支える柱で、幅はさらに15㎝ほど削られる)、スライドドアであること。幾つかの候補の中から、本国フランスではBさんの好きな業務用の乗り物として認知されているルノー・カングー(2009年型・前期モデル)に決まった。色は、奥様の希望で「少数派」の青。親子でキャンプに出掛けることを夢見ているという。

より美しく、より便利に

リビングの右手の窓の向こうが、バイク用のガレージ。左手の明るい窓の向こうは中庭。普段は洗濯物干場だが、友人が集まればBBQスペースに。この窓のおかげで、通りから見ると屋根だけの家も、内部は想像以上に明るい。

大きな天井は、美しく仕上げられている。

第一子が生まれたばかりで、まだ利用されていない2階の子供部屋。

梯子で上ったロフトにはファンが設置されており、大空間の空気を循環させる。

さて、難しい条件が多い中、建築家の齋藤さんは規制をクリアするだけでなく、新進気鋭の建築家らしい大胆な提案を行った。中でも一直線に伸びる大きな屋根の下に家の全てが入る構成としたのは、隣家の日照を確保するだけでなく、デザイン上の大きな特徴となっている。しかも法解釈のおかげで、内部はより広い空間となった。一段低い車庫棟と住居棟の二棟の建物として登記したことで(二つの建物の間には僅かな隙間がある)、より高さを稼ぐことができたのである。結果、2階の主寝室の天井は高く、子供部屋の一部にはロフトが設けられた。さらにリビングから上を見上げると、大きな屋根の裏側は一面フラットで、照明などの造形物が何も存在しない、クリーンで美しい天井。建築家が細部の意匠にまで拘ったことが分かる。

ダイニング脇のシェルフは、奥様の依頼で制作されたもの。化粧時に用いるスツールも納まるようになっている。

階段下のスペースを利用して、ちょっとした書斎スペースに。

1階の床材は、50種類のサンプルから、家具の色に合ったものを選択。
壁に木が張られたバスルームは、癒しの空間。

もっとも家作りには、建築家のアイディアだけでなく、住む人の使い勝手を考慮することも肝要である。例えばB邸では、奥様の要望で、ベッドルームを広くして化粧用のスペースをとるより、その分をウォークイン・クローゼットに充てることを選択。化粧は、慌ただしい家事や子育ての合間となるので、ドレッサーはダイニングキッチン横のシェルフに組み込むのが最善と、奥様自ら絵に描いた棚を制作した。

建て主であるBさんは、メーカーの開発者として、利用者の声をくみ上げて新製品に活かす仕事に就いている。そんな彼のすぐ傍には、消費者がまだ知らない便利な機能を開発し、使いたくてウズウズしているエンジニアたちが。両者の調整を行い、より良い製品を世に送り出すのが生業だ。家作りにおいても同様に、エンドユーザーである奥様の希望と、建築家の斬新な提案を、Bさんは上手く塩梅した。「仕事と共通するところが随分ありました。この調整が面白かった」と話す。こうして完成したB邸は、個性があるだけでなく、住み手にとって暮らしやすい家となった。

■建築家:齋藤隆太郎 1984年、東京生まれ。東京理科大学大学院を修了後、竹中工務店勤務を経て独立。注目される若手建築家のひとり。設計を行うだけでなく、東京大学に籍をおき、教鞭もとる。住宅以外に福祉施設も手掛け、写真は10月末竣工予定の、陸前高田市の復興計画の象徴となるプロジェクトのひとつ。
 
文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

 (ENGINE2018年04月号)

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