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PLAYING 2019.3.20 

かつてない白さ。国内初のシラスコンクリート住宅/クルマと暮らす07

67㎡の敷地に建つコンクリート打ちっ放しの住宅。三角形の窓が印象的だが、実はこの住宅、ただのコンクリート住宅ではなかった。

敷地は67㎡

東京都渋谷区に建つK(52)さん夫婦のコンクリート打ちっ放しの家。彫刻のような造形が印象的だ。しかもこのコンクリート、よく見ると色が白くて肌理が細かい。付近の同じような建造物と比べると、それは明らかである。実はこのお宅、特別な素材で作られた住宅なのだ。

写真からも、シラスコンクリートの肌理細かさが伝わるだろうか。RCの四角い箱を、大きさの異なる三角形の窓で切り欠いた造形は彫刻のよう。建物は「R・トルソ・C」と名付けられた。玄関ポーチと階段、そして柱状の表札と一体になった建物から伸びる金属製の手摺も、支えの無い凝った構造。

樹木の根元には、シラスコンクリートの原料となる火山石が敷かれている。

そもそもKさんたちが家を建てたのは、定年になっても故郷に帰ることなく、住み慣れた都会で暮らすことを選択したため。今まで通りのマンション住まいでは、Kさんの趣味である音楽を楽しめる防音設備の整った部屋は望めない。そこで見つけたのが、都心の67㎡の土地である。

ここで問題になるのが、この面積の敷地に、車庫を確保するか否か。この件に関しては、「できるだけクルマで出かけたい」奥様の意見が採用された。二人は同じ県の出身だが、Kさんは駅に近いクルマの無い家庭で育った。一方、奥様の家には小さな頃からクルマが。対照的な二人の結婚当初は、通勤に必要なこともあって2台持ち。Kさんは友人から譲り受けたシトロエン2CV、奥様はMTのホンダ・インテグラの生活だった。その後インテグラはメルセデス・ベンツA160に代わり、1台持ちになる際に選んだのが、フィアット500 1.4 16Vスポーツ(2008年製)。「パドルシフトがあるので、運転が楽しい」そうだ。もっともこの敷地で確保できたのは、フィアット500でやっとのスペース。家の前は一方通行なので、右側のドアからは乗降できず、左のドアを利用している。

技術的挑戦のある家

さて、Kさんはバブル世代。若い頃に流行ったコンクリート打ちっ放しが好きで、家を建てる時は、コンクリート住宅と決めていた。そして設計を依頼したのが、「マグリッツ」や「チカニウマルコウブツ」に惹かれた、アトリエ・天工人(テクト)の山下保博さんだ。事前の調査で分かっていたのは、山下さんがガラスや土などを用いて、これまでにない新しい素材を開発し、チャレンジングな試みを行ってきたこと。会社員ではあるものの、Kさん夫婦は科学者で、技術への挑戦には興味がある。自分の家も新素材の開発のために使っても構わないと提案したところ、山下さんのからの回答は「シラスコンクリート」だった。

シラスコンクリートを採用

これは南九州に厚く堆積している火山灰の「シラス」を、砂の代わりにコンクリートに混ぜたものだ。メリットは、製造過程が環境に優しく、肌理が細かいうえに、調湿・消臭効果があり、長期間に渡って強度が保たれること。同じように火山灰をコンクリートに混ぜた例といえば、ローマのパンテオンがある。通常コンクリートの寿命は50~100年と言われるが、2000年以上も前の建築が今も残っているのは、この素材のお陰だ。もっとも日本では、シラスコンクリートが建築物に使用された例はない。そこで山下さんを含めた大学・企業のチームが2年近く共同研究を行い、実物大の模型で実験を行ったうえで、この住宅に限っての国務大臣個別認定を取得、竣工にこぎつけたのである。こうして完成した内外がシラスコンクリートの家は、見た目や手触りが滑らかであるうえ、消臭効果のお陰で、訪れた人は、「コンクリート建築特有の臭いがない」と口にするそうだ。

敷地のサイズを忘れさせる、解放的な2階のLDK。階段の吹き抜けに吊るされた照明は、ガラス作家の荒川尚也氏のもの。
ダイニングテーブル横の窓を利用し、食器を並べるディスプレイの棚としたのはアイディア。テーブルの上の空間まで、収納にした。

2階のバスルームも吹き抜けで、浴槽から空が見える。

1階の収納扉は、MDFに黒墨を施したものだが、地下の扉には柿渋が使われている。手摺などは、金物作家の田中潤氏の手によるもの。

 K邸の構造は、1階の床の位置を少し高くした、半地下のある地上3階建て。少々薄暗い1階は、天井が少し低めの2m10㎝。LDKのある2階に上ると、そこは高さ5mを超える明るい空間だ。角に大きく三角形の窓がとられており、都会の空が大きく見える。隣家が接する都市の生活で、自然を感じられるようにとの配慮だ。

そして3階は、天井の低いベッドルームと奥様の書斎。地下は、Kさんの音楽室となっている。緩やかな角度の上りやすい階段の採用や、3階から2階のトイレや浴室が覗ける構造は、年齢を重ねてからの生活を考えてのものだ。

美的センスの溢れる空間

和室の壁は、黒箔を張ったもの。奥様の嫁入り道具である箪笥と火鉢は、この家でも大切に使われている。モノの多いKさん夫婦のために収納は多く設けられ、「ミニマル」と感じられる家となった。

こうした合理的な側面よりも、実際にKさんたちのお宅を訪れて感じるのは、いたるところに表れている美意識だろう。この家のために誂えた部材やパーツが、シラスコンクリートの空間に、実に見事にマッチしているのだ。贅沢な素材ではないが、吟味された品々や、手間のかかった仕上げは独特の雰囲気がある。コンクリートの小さな住宅は日本に多いが、海外からK邸の取材依頼が多いのも、この家の美しさや品の良さと無縁ではないだろう。

こうした美の結晶のような家が完成したのも、Kさん夫婦が、建築家に全て任せるのでなく、積極的に提案し、家作りに関わったからに他ならない。二人は鹿児島で行われたシラスコンクリートの実験にも立ち会った。作家もののガラスのペンダントを指定し、床材や、キッチン・収納扉の仕上げ、スイッチ類なども見本の中から選び、納得いかない場合は自ら探した。その過程でKさんたちの好みを理解し、建築家は美しい家に仕立てたのである。

通常の家を建てるより随分と時間がかかったが、二人はそれを楽しんだ。だから「家が完成してしまったので、もう何もすることがなくて寂しい」と、奥様は語る。

そう、家作りは本当に楽しい作業なのだ。

■建築家:山下保博 1960年鹿児島県奄美大島生まれ。芝浦工業大学大学院修了。アトリエ・天工人創設者。新しい建築用素材の開発や、独創的な建築で世界的に知られる。代表作は、45㎡の狭小地に建つ「チカニウマルコウブツ」など。震災の被災者のための低価格の住宅プロジェクトや、奄美と佐渡の伝統的な住宅を、その良さを生かして宿泊施設に改装した「伝泊」など、多岐に渡って活動している。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2017年12月号)

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