■壊れやすい結合

 問題となったのは、HeH+から放出される電磁波が地球の大気で遮られてしまうことだった。HeH+からの電磁波は遠赤外域の範囲にあるため、地上からの検出は不可能だったのだ。

 そこで、米航空宇宙局(NASA)とドイツ航空宇宙センター(DLR)は、2.7メートルの大口径望遠鏡と赤外分光計、さらにはボーイング(Boeing)747型機の三つの主要要素で構成される空飛ぶ天文台を共同開発した。ボーイング747は胴体の一部が四角く切り取られ、観測用の窓として用いられた。

 この「遠赤外線天文学成層圏天文台(SOFIA)」は高度1万4000メートル近くを巡航することで、地上の望遠鏡が受ける大気のノイズを約85%回避できた。

 2016年5月に実施した3回の飛行で得られた観測データには、約3000光年の距離にある惑星状星雲NGC7027内に、科学者らが待ち望んでいた分子の証拠が含まれていた。

「HeH+の発見は、自然が分子を形成する傾向を持つことを示すドラマチックで美しい証拠となった」と、ニューフェルド教授は指摘する。

 初期宇宙の温度は、ビッグバン後に急速に低下したが、それでも4000度近くはあった。それは分子結合にとっては厳しい環境だったが、その中でHeH+が出現したのだ。

 さらに、分子を形成する傾向が極めて低い「希ガス」のヘリウムと電離した水素との結合はもろく壊れやすい。そのため、HeH+はそれほど長くは持続せず、徐々により強固で複雑な分子結合に取って代わられることとなった。

 炭素、酸素、窒素などのより重い元素やそれらで構成される多くの分子はさらに年月を経た後、星を輝かせている核融合反応によって形成された。(c)AFP/Marlowe HOOD