■がん治療との関係

 一つ目は、HIVに耐性がある突然変異したCCR5遺伝子を持っていたとする説だ。HIVの大部分は、受容体であるCCR5と結合することによって細胞に侵入するが、CCR5デルタ32と呼ばれる突然変異型CCR5は、HIVの侵入を防ぐことができる。CCRデルタ32を保持しているのは欧州人のわずか1%で、その他の人種は事実上保持していない非常に珍しい遺伝子だ。

 ブラウンさんとロンドンの患者はともに、この突然変異型CCR5を保持するドナーから、幹細胞移植を受けていた。

 英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の教授で、論文の主執筆者ラビンドラ・グプタ(Ravindra Gupta)氏は、「(HIVの)寛解を実現し、抗レトロウイルス治療を生涯続けることから人々を解放するには、CCR5の治療効果に関する研究をさらにすすめることが選択肢として挙げられる」と述べた。

 ブラウンさんとロンドンの患者の間にも、同じようながん治療を受けた感染者が何人かいたが、ブラウンさんの治癒例が特殊な例なのかどうか判断がつく前に、がんで死亡していた。

「二つの免疫系が混ざり合い、新しい免疫系が元の免疫系に反応したというのが第2の説だ」とルウィン氏は言う。これは移植によって起こる合併症の一つで、「移植片対宿主病」と呼ばれている。

「おそらく今回起こったのはこれで、移植片がHIVを全て消滅させたと思われる」とルウィン氏は語った。

 一部の研究者は、ロンドンの患者の例が出てくる前までは、幹細胞移植に先立つ集中的な放射線療法と化学療法がHIVを消滅させたとする第3の説を主張していた。だが、ロンドンの患者が受けた移植前治療は、ブラウン氏が受けた治療に比べると軽いものだったため、第3の説はHIVが消滅した説明にはならないと多くの研究者が結論付けた。(c)AFP/Marlowe HOOD / Patrick GALEY