■手が届くところに?

 反物質は事実上、存在しない。宇宙線などの非常に高エネルギーの現象やCERNの実験室内などで生成される極めて希少で短寿命の粒子を除いては。

 ALPHAの物理学者チームは、通常物質の最も簡単な原子の水素を用いて反物質の謎の解明を試みている。水素は陽子1個の周りの軌道に電子が1個存在する。

 チームは、CERNによる高エネルギー粒子の衝突で発生した反陽子を捕捉し、(電子と対を成す反粒子の)陽電子と結合させて、水素の反粒子を生成する。生成される反水素原子は、通常物質と接触して対消滅してしまわないように、磁気トラップに閉じ込め、この状態の反水素原子にレーザー光を当てて反応を調べる。

 原子は物質の種類によって異なる振動数の光を吸収するため、主流理論に基づけば、水素と反水素は同じ種類の光を吸収する──そしてこれまでのところ、その振動数に違いはみられない。

 だが、実験の精度が高まるにつれて、両者の違いが現れるに違いないと研究チームは期待している。

「現在の精度はまだ通常の水素の精度には及ばないが、ALPHAの急速な進歩は、反水素(の測定)で水素と同レベルの精度の実現に今や手が届くところに来ていることを示唆している」と、ハングスト氏は話した。(c)AFP/Mariëtte Le Roux