■細胞を誘導する

 だが、それはこれまでの話だ。

 リュー氏によると、「アデニン塩基エディター(ABE)」と命名された最新技術は、A-T塩基対からG-C塩基対への変換を巧妙に誘導することで「既知の病原性点変異3万2000種の約半数を占めるタイプの変異」を修正できるという。

 ABEの「破棄して置換する」手順の重要なステップである「AからCへの変換」を行う酵素は自然界に存在しないため、研究チームはこの変換を誘発する酵素を一から作製しなければならなかった。新たな酵素の作製は初めての試みだったが成功した。

 この手順は、他の遺伝子編集技術に比べて成功率がはるかに高かっただけでなく、DNAの不要な重複や欠失などの副作用が実質的にゼロだった。

 ABEの治療可能性を証明するため、研究チームは実験室で、遺伝性ヘモクロマトーシス(HHC)の患者から細胞を分離した。HHCは過剰な鉄分の蓄積が原因で発症する深刻な疾患で、瀉血(しゃけつ)などによって治療する。

 ABEは、HHCの変異を恒久的に修正した。この実験結果は原理上、ABEが将来的にいかに有効に機能する可能性があるかを示すものとなった。

 今回の研究結果については、他の専門家らも称賛の声が上がっている。英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のヘレン・オニール(Helen O'Neill)氏は、「4種類すべての塩基のペアをこれほど高い選択性をもって直接的に変換できることは、ゲノム編集のさらなる武器になる」とABEの可能性について述べ、「病気の研究と将来における病原性変異の修復において途方もない威力を発揮するに違いない」と期待を寄せた。(c)AFP/Marlowe HOOD