【2月17日 AFP】米科学アカデミー(NAS)は今週、生物の遺伝情報を改変する技術「ゲノム編集」について、将来的にはヒトの胚でも認められるべきとする提言書を発表した。病気を防ぐ目的に限るとはしているが、倫理的な問題が指摘されている同技術をめぐって新たな論争に発展した。

 NASの提言を受け、一部の研究者らは、ある特定の個人の知能を大幅に上昇させたり、特別な身体的能力を持つ人を創造したりすることを目的にゲノム編集技術が悪用される恐れがあるとして、懸念を示した。

 提言書には、「配偶子または初期胚に存在する塩基対の追加や削除、置き換えといったヒトの生殖細胞系列のゲノム編集の臨床試験は、将来認められる可能性がある」と記され、「これは重篤な疾患に対して厳しい監視下で行われる場合に限られる」との条件も併記された。

 提言ではさらに、低コストで精度の高い遺伝子編集技術「CRISPR/Cas9」の出現は、さらなる研究機会を増やし、遺伝性・非遺伝性ともに、人の健康問題における臨床応用の可能性を広げたことを指摘。NASは今回、ヒト遺伝子編集技術に付きまとう、科学的、倫理的問題、さらにはその管理方法について話し合った。

 NASは、非遺伝性の身体的特徴に対する遺伝子編集の臨床試験についてはすでに話が進められているとしながら、その上で、身体的能力や知的能力を高める目的で科学の技術を利用することは「現時点で認められるべきではない。疾病や障害の治療や予防以外の目的のためにゲノム編集を行う場合は、臨床試験を認める前に社会での広範な議論が求められる」とした。

 遺伝子編集技術をめぐっては、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)国際生命倫理委員会(IBC)が2015年、優生学の復活や人類の遺伝子の質を改良することを目的とした研究につながる恐れがあるとの懸念から、ヒト生殖細胞系列の編集の禁止を呼び掛けている。またヒトの遺伝子編集を禁じる国際協定には、40か国以上が署名している。

 今回の提言について一部の専門家からは、時代は急速に変化しており、NASはゲノム編集技術の倫理上の監視を徹底させながら、期待されるこの技術に関する議論を進める狙いがあるとの見方も上がっている。

 英エディンバラ大学(University of Edinburgh)のブルース・ホワイトロー(Bruce Whitelaw)教授(動物生命工学)は、「ゲノム編集をめぐる議論で重要な一歩が踏み出された」としながら、「従うべき厳格な原則を示した上で、社会の期待度が高いこの技術を拙速に禁止することのないよう警告した」と提言を評価した。(c)AFP