【10月6日 AFP】侵略的な生物種を一掃したり、病気を媒介する蚊の能力を変化させたりすることが可能な科学技術が進展するなか、自然界を永久に変えることに対する倫理的問題への懸念が専門家らの間で高まっている。

 この目覚ましく進歩している科学の一分野は、人の健康に関することだけでなく、自然保護の方面からも大きな議論を呼んでいる。これらの技術は、生物のDNAに人が手を加えて、その生態を変化させることと密接な関係にある。

 おそらく最も賛否が分かれる種類の研究は、「遺伝子ドライブ」として知られるものだろう。これは、特定の遺伝形質が親から子に確実に受け継がれるようにする技術で、最終的には種全体に及ぶ遺伝子変化を引き起こす。

 米ハワイ(Hawaiian)州で先月開かれた国際自然保護連合(IUCN)主催の世界自然保護会議(World Conservation Congress)で科学者らが発表したところによると、検討段階のプロジェクトの一つは、オスの子孫だけが生まれるように遺伝子を改変したマウスを島に放ち、未来の世代に終わりが確実に来るようにする計画だという。

 また、ハワイの島で絶滅の危機に直面している鳥を救うために、鳥類のマラリアを運ぶことができないよう遺伝子を改変した蚊を放出するという案もあるとされた。

 遺伝子ドライブの推進派は、この技術により、環境を汚染する農薬が不要になる上、侵略的生物種に対しては、現在利用可能などのツールより効果が高い対策を提供できるようになる可能性があると主張する。

 その一方で、反対派からは、地球上の生命体を恒久的に改変することの影響と、生物と生態系に遺伝子ドライブが及ぼす未知の──そして不可逆である可能性が高い──影響を懸念する声が上がっている。

■「密室の中」

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)のケビン・エスベルト(Kevin Esvelt)助教は、生物種を改変するために、「クリスパー(CRISPR)」と呼ばれる遺伝子編集技術の使用を最初に提唱した科学者の一人であり、それと同時に遺伝子編集技術利用の可能性に対して、最も慎重な意見を表明している一人でもある。

 エスベルト氏は、IUCNの会議で行われたパネルディスカッションで「遺伝子ドライブなどの共有環境の改変を目的とする技術を研究室内で開発する際には、研究計画書を先に公開しなければ着手できないようにする。これを必須要件とするべきだ」と述べた。

 そして、「研究室内での開発が何らかの誤った方向に進んでしまうと、それは研究室の外にいる人々にも悪影響を及ぼす恐れがある。これはすなわち、科学の従来のやり方のように、研究室内での開発を『密室の中』で進めれば、人々に悪影響を及ぼす恐れのある決定を下す際に、人々に発言権を与えないことになる」と続けた。