■「無重力」の影響を排除

 地球とそこに住む人々を保護する磁気圏を越えた宇宙空間で、アポロ飛行士らは前例のないレベルの粒子放射線にさらされたと論文は指摘している。NASAによると、銀河放射線(宇宙線)の高エネルギー粒子は、皮膚を貫通して細胞やDNAを損傷する可能性があるため、人間に危険を及ぼす恐れがあるという。

 これに対して、ISSは磁気圏内を通る地球周回軌道上にある。

 宇宙飛行士の長期的な健康状態に関する調査で、実際の宇宙旅行を経験していない飛行士を比較の対象としてとして含めたのは、今回の研究が初めて。

 宇宙飛行士と一般人とを比較することは、混乱を招く結果となり得る。全般的に高い教育水準と健康志向、さらには生涯にわたって利用できる医療ケアが、宇宙飛行士らにとって健康向上のための要因となるためだ。

 今回の研究では、「地球を出ていない」「低周回軌道」「磁気圏外の宇宙」の異なる3タイプの飛行士を比較することで、無重力が循環器疾患に及ぼす可能性のあるあらゆる影響を排除できた。これら3グループではすべて、無重力状態を経験していたからだ。

 また、死因としてのがんや事故に関しては、これら3グループの間に差はみられないことも、今回の研究で判明した。

■マウス実験では有害性示す

 アポロ飛行士らの循環器疾患による死亡率が他と比べて高かったことを受け、その原因の検証を目的に、研究チームは同程度のレベルの放射線をマウスに浴びせる実験を行った。

 実験結果についてフロリダ州立大は声明を発表し、「人の20年に相当する6か月が経過した後、マウスは動脈の機能障害を示した。これは、人ではアテローム性動脈硬化症の発症につながることが知られている」と説明。デルプ氏は、「宇宙空間の放射線は、血管の健康に有害であることを、マウスの実験データは示している」と付け加えた。(c)AFP/Mariëtte Le Roux