■「思ったことを実行できる」

 バークハートさんは、運動機能をつかさどる脳の運動皮質野に、チップを埋め込むための手術を受けた。

 チップは頭頂部で、コンピューターと接続するための「コネクター」と接続された。バークハートさんは、自分の思考を読み取り、実行したいと考えている動きを解読できるようコンピューターを「訓練」した。そして、手を開く、握る、指でつまむなどの命令が、右腕に巻いた電極スリーブへと送られる。

「やりたいことを頭で考えるだけで、それを実行できるようになった」とバークハートさんは話す。

 バークハートさんが再習得した運動機能の一部は、日常生活をより良い方向に変える可能性を秘めている。だが現在のところ、それらの機能を実行できるのは、実験室の中でだけだ。

 研究チームは、脊髄損傷の患者だけでなく、脳卒中や外傷性脳損傷の患者にもこの技術を応用できるよう、今後さらに向上させたいとしている。

 米オハイオ州立大学(Ohio State University)のアリ・レザイ(Ali Rezai)氏は、「おそらく今後2~3年以内には、接続ケーブルなしで手や腕を動かすことを可能にする無線システムの導入もできるだろう」と話す。「いずれは、この技術をさらにスリム化できればと考えている。携帯電話に組み込んで、スリーブと通信するような形になるかもしれない」

 これまでの取り組みについてバークハートさんは、「誰かが自立を取り戻すために役立つなら、それは素晴らしいことだと思う」と述べ、そして「けがをするまでの自立が本当に忘れられない。だから、誰かにその能力を取り戻させることができれば、それは大きな偉業だ」と続けた。(c)AFP/Mariëtte Le Roux