【4月14日 AFP】事故で脊椎を損傷し、胸部から下がまひした米国人男性が、またコーヒーをかき混ぜたり、クレジットカードを機械に通したりするために自分の右手を使えるようになったとする研究報告が13日、発表された。

 この史上初の偉業は、米オハイオ(Ohio)州出身のイアン・バークハート(Ian Burkhart)さん(24)の損傷した脊髄に代わり、脳と手の筋肉との間をつなぐ情報伝達経路となるコンピューター・ソフトウェアによって達成された。

 米ニューヨーク(New York)州マンハセット(Manhasset)にあるファインスタイン医学研究所(Feinstein Institute for Medical Research)の研究者、チャド・ブートン(Chad Bouton)氏は「四肢が完全にまひした患者が、自分自身の思考を使うことだけで運動機能を回復したのは、今回が初めてだ」と話す。

 バークハートさんの頭部に埋め込まれた豆粒大のチップで読み取られた脳信号は、コンピューターで解読され、別経路を通じて手、手首、指などの筋肉に伝達される。

 筋肉は、右手の前腕部に巻いた電極スリーブから命令を受け取る。バークハートさんは現在、この右手を使って、クレジットカードを機械に通したり、スプーンを持ち上げたり、受話器を耳にあてたり、テレビゲームのギターコントローラーを操作したりすることができる。

 米国を拠点とする研究チームは、まだ初期段階にあるこの研究によって、まひの患者が自分の手で食べ物を口に運んだり、衣服を身に着けたりすることが可能になる日が来ると期待を寄せている。

 研究チームが開発した「ニューロライフ(NeuroLife)」と呼ばれる装置は、脳から発せられた命令を脊髄を経由しない別経路で筋肉に伝える。

 バークハートさんは19歳の時、休暇中にダイビングの事故で首の骨を折り、腕と脚がまひして動かない四肢まひの状態に陥った。

 バークハートさんは、研究報告の発表に先立ち開かれたテレビ会議形式の記者会見で「首の骨が折れているから、肩を動かすことはできるが、それ以外は一生まひしたままの可能性が高い、と医師らに告げられた」と語った。そして事故から6年後、再び手を動かすことができるようになった。