■かんで、かんで、かんで

 リーバーマン氏と共同研究者のキャサリン・ジンク(Katherine Zink)氏のチームは、先史時代の人類が食べていたと思われるものと同様のヤギの肉、ビートの根、ニンジン、ヤムイモなどの食物を、現代人がそしゃくする様子を観察する実験を行った。

 食物に及ぼされるそしゃく力の違いを測定するため、実験に参加したボランティアには、丸ごとや石器を使ってスライスしたり砕いたり、生のままや加熱調理済みなどの、さまざまな形態の食物を与えた。

 その結果、生の未処理の肉をそしゃくするのが非常に苦手としていることが分かった。研究チームにとって少し意外な結果だったという。

「人に生肉を1切れ与えると、かんでかんでかみ続ける」とジンク氏は話す。「生肉は、実際には極めて軟らかいが、非常に弾力性がある。チューインガムに近く、実は細かくかみ砕けないのだ」

 そして、生肉を細切れにすることで状況は改善され、加熱調理するとさらに状況が好転することを、研究チームは確認した。また、野菜の場合も細かく砕いたり、調理したりした方が良いことが分った。

 次に研究チームは、現生人類と同程度の大きさの歯を持つ初期ホミニンが日常的に食べていた可能性がある食物に、今回の実験結果を適用した。ホミニンの食事は、全体の約3分の1が肉で、3分の2が野菜だったと考えられている。

 今回の研究についてジンク氏は、「単に肉をスライスしたり野菜を砕いたりするだけで、ホミニンは、そしゃく活動、すなわち使用するそしゃくの回数を約17%軽減させることが可能と思われることがわかった」「これは、かむ回数が年間約250万回少なくなることに相当する」と説明した。

 人類において、栄養の摂取を向上させ、その後の進化を後押ししたのは、肉食自体への移行ではなく、肉を食べやすくするための手段、基本的には食物を砕くための重い石と、切るための鋭利な石片を手にしたことだったことを、このデータは示唆している。

 これはすべて、調理の発明のはるか以前のことだ。(c)AFP/Mariëtte Le Roux