【10月22日 AFP】日焼け止めに含まれる化学物質が世界各地のサンゴ礁に大きな被害を与え、その存在自体を脅していると警鐘を鳴らす研究結果がこのたび発表された。

 環境毒物学専門誌「アーカイブス・オブ・エンバイロンメンタル・コンタミネーション・アンド・トキシコロジー(Archives of Environmental Contamination and Toxicology)」の最新号に掲載された研究論文によると、化学物質「オキシベンゾン(ベンゾフェノン-3、BP-3)」は、世界中の3500以上に及ぶ日焼け止め製品に含有されているという。

 オキシベンゾンは、海水浴客らや沿岸の汚水処理システムから排出される廃水によって海水に混入する。サンゴ礁は、数十年間にわたって減少傾向にあり、環境汚染、気候変動、嵐、疫病などの多数の脅威に直面している。

 論文によると、紫外線遮へい効果を持つオキシベンゾンは、サンゴのDNAにダメージを与える。その幼生に「著しい奇形」を発生させ、さらに「最も憂慮すべきことに、外因性内分泌かく乱物質(通称、環境ホルモン)として作用する」ことだという。またこの作用により「サンゴは自身の外骨格に閉じ込められ、死に至る」ことを余儀なくされているというのだ。

 そして、さらなる懸念として、オキシベンゾンが62ppt(pptは1兆分の1を意味する単位)の低濃度にまで高度に希釈された場合でも、その有害性が科学的に観察できることが今回の研究で判明した。62pptは「オリンピック競技用プール6個半中の水滴1滴」に相当する。

 米ハワイ(Hawaii)州と米領バージン諸島(Virgin Islands)のサンゴ礁近海では、これよりはるかに高濃度のオキシベンゾンが検出されている。これら海域での値は800ppt~1.4ppm(ppmは100万分の1を意味する単位)だった。論文によると、この値はサンゴに影響を及ぼすのに必要な濃度の12倍以上だという。

 研究チームの試算によると、年間6000~1万4000トンもの日焼け止めクリームが、サンゴ礁海域に排出されている。オキシベンゾンは、日焼け止めクリームの1~10%を構成している。しかし、サンゴ礁がすべて遊泳海域近くに位置しているわけではないので、日焼け止めの害にさらされる危険性が高いのは、全世界のサンゴ礁の約1割と研究チームは考えている。

 今回の研究は、米バージニア(Virginia)州とフロリダ(Florida)州、イスラエル、米国立水族館(National Aquarium)、米海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric AdministrationNOAA)などの海洋科学者らが主導した。

 論文の主執筆者で、バージニア州のハエレティクス環境研究所(Haereticus Environmental Laboratory)に所属するクレイグ・ダウンズ(Craig Downs)氏は「サンゴ礁の保全が最重要課題となっている島々や海域では、オキシベンゾン含有製品の使用に対する熟慮が不可欠となる」と話す。

 さらに「サンゴ礁回復のためにサンゴの苗床をつくりたいと誰もが考えているが、サンゴ礁にダメージを与えてきた要因が環境中に残存または増大しているとすれば、回復への努力は報われないだろう」と指摘した。(c)AFP