【10月5日 AFP】中国東北部・吉林(Jilin)省にある南坪(Nanping)村を北朝鮮と隔てるのは高さ3メートルの鉄条網フェンスと蛇行して流れる豆満江(Tumen River)のみだ。近年、北朝鮮からの侵入者による犯行とみられる殺人事件が後を絶たず、川やフェンスだけでは自分の身を守れないと恐れる住民らが次々に離村している。

 中国当局者らや国営メディア報道によると、この1年間、南坪村では少なくとも10人の住民が北朝鮮人に殺害された。強盗目的の北朝鮮兵によるものが大半だったという。

 北朝鮮では食料安全保障が慢性問題化しており、経済的に余裕のある中国側の町村は切羽詰まった北朝鮮側の人々から襲撃されるかもしれないとの懸念を募らせている。

■有効策なく廃虚化が進む村

 南坪村の人口は公式には6000人以上とされているが、実情ではゴーストタウン化が進んでいる。住宅やビルのほとんどは何年も放置されたままで、窓ガラスは割れ、庭は荒れ放題だ。

 村の住民は民族的には朝鮮族だ。複数言語を自在に操る能力ある若い世代は、韓国企業などでのより良い雇用機会を求めて村を離れていく。残るのは高齢者と小規模な中国軍駐屯部隊だけ。同村の共産党支部書記長ウー・シーゲン(Wu Shigen)氏は30代だが、村で一番若いという。

 ウー氏には2つの治安維持策がある。一つは自発的な夜間外出禁止、もう一つは情報統制だ。「夜は出歩かず身辺にも気を付けるよう、全住民に呼び掛けている」とウー氏は話す。しかし、殺人事件の被害者は大半が自宅で殺害されている。

 これについて、ウー氏は「どの襲撃事件にも目撃者はいない。われわれも住民には多くを語らない」と語った。事件を詳細には知らない方が恐怖心が薄まるからだという。

 国境沿いの2本の道路では防犯カメラによる監視が続けられている。さらに今年に入ってから、中国政府は住民と軍が協力してパトロールを実施すると発表した。

 しかし、住民の話ではパトロール隊が結成された事実はない。ある店主によれば、ここ数か月は襲撃事件などに恐れをなして高齢者までが村を後にしているという。

■長きにわたる同盟関係に変化

 今年4月、南坪村付近では食料と金銭目当ての北朝鮮の兵士3人によって住民3人が殺害された。昨年12月にも、北朝鮮兵が村内の高齢夫婦を殺害し、現金100元(約1900円)と少量の食べ物を奪ったあと射殺されるという事件が起きている。

 計4人が犠牲になったこれらの事件後、中国外務省の洪磊(Hong Lei)報道官は、北朝鮮に正式に抗議したことを明かすとともに、両国政府が事態を「極めて深刻」に受け止め、北朝鮮が事件に対して遺憾の意を表明したと発表した。中国が長年におよぶ同盟関係にある北朝鮮を公に非難するのは異例のことだ。

 新京報(Beijing News)によると、その3か月前にも北朝鮮の民間人が強盗目的で南坪の一家3人を殺害したとして身柄を拘束されている。

 識者らは、これらの殺人事件を中国政府が積極的に公表している背景には、北朝鮮当局に対するいら立ちがあるとみる。さらに、過去にも公表されていない同様の事件があった可能性を指摘している。

 朝鮮戦争(Korean War)時に中国が100万を超える部隊を派遣して北朝鮮を支援し、強固な関係を築いた両国は、以来、長きに及ぶ同盟関係を維持している。現在も中国は北朝鮮にとって外交上最大の保護国であり支援国だ。

 だが、中国には北朝鮮の不安定な現状への危惧がある。一方の北朝鮮は核開発を進めながら、敵対する国々に対し融和策を示したかと思えば脅迫的な態度に出るなど、一貫しない姿勢を取り続ける。さらに金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)第1書記の北京訪問も、いまだに実現していない。(c)AFP/Benjamin HAAS