■言葉の線引きで変わる立場

 理論上、「移民」とは誰であれ移住する人のことを指す。一方、祖国にとどまれば危険や迫害に直面するという理由で他国へ亡命申請している人々を「亡命希望者」、特別な権利と恩恵が与えられる難民認定を受けた人々を「難民」と呼ぶ。

 しかし「難民」という言葉は、亡命を申請したかしないかにかかわらず、戦乱や迫害、自然災害から逃げてきた人を意味するために、より一般的にも使われるので混乱が生じる。

 政治家たちは「難民」と呼ぶと救済する義務が生じる可能性を恐れ、この言葉を避けようとすることが多い。8月に英仏の内相が調印した3400語に及ぶ「カレー(Calais)での移民流入管理」に関する合意書では、「難民」については一度も触れられず、一方で「移民」という単語は36回使われた。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の広報担当者アリアン・ルメリー(Ariane Rummery)氏は「暴力や迫害から逃れようとする人の流れを表現する上で『移民』は正確な言葉ではない。欧州沿岸部に到着している人々の大半は、シリアやアフガニスタン、イラク、エリトリアといった紛争や暴力、迫害が起きている国々から来ている」と語る。

 しかし、スイス・ジュネーブ(Geneva)に本部を置く国際移住機関(International Organization for MigrationIOM)は「経済移民」にも「難民」にも当てはまらない人たちが大勢いると指摘する。親や家族と合流しようとする子どもたちや人身売買の被害者もそうだ。

 IOMの広報責任者レナード・ドイル(Leonard Doyle)氏は「あの人々全員を難民と呼んで、故国に送還する必要はないとしてしまう立場は極めて危険だ」と語った。「非常に複雑な動きの中に置かれた人々がいるときに、我々は白黒明確な線を引こうとしている」。IOMでは誰に対しても「移民」という包括的な用語を使うべきだと強く主張している。

 一方、キリスト教団体「拷問撤廃のためのキリスト教徒行動(Action by Christians for the Abolition of Torture)」のイブ・シャハシャハーニー(Eve Shahshahani)代表は「亡命者」という言葉はどこへ行ったのかと問う。この言葉ならば「経済的理由か政治的理由かにかかわらず」国を出ることを余儀なくされた状況が強調されるという。

 裕福な白人の外国人は「国外居住者」と呼ばれるのに、他の人種だと「流入移民」と呼ばれるという問題もある。これは人種差別の片りんだと、ブログ「シリコンアフリカ(SiliconAfrica.com)」を主宰する人権活動家のマウナ・レマルク・コートニン(Mawuna Remarque Koutonin)氏は言う。「白人を他の誰よりも上に置く目的で作られた階層的な言葉は今もまだある。『流入移民』は『劣った人種』に割り当てられた言葉だ」と最近のブログで書いた。