【4月30日 AFP】3D印刷技術で作成した移植用組織を用いて、致命的な気道疾患を抱える子ども3人の命を救ったとの研究報告を、米国の医師チームが発表した。個人の特徴に合わせて作成され、術後に体に吸収されるこの移植用組織は、3Dプリンターの医学的活用に新たな前進を示すものだという。

 29日の米医学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン(Science Translational Medicine)」に掲載された論文によると、気管閉塞を引き起こす致命的疾患「気管気管支軟化症」で死の危機に直面していた乳児3人は、気管の「添え木」となる組織の移植を受けて回復し、支障なく呼吸できるようになったという。

 個人の体に合わせ、3D印刷技術を用いて作成されたこの移植用「添え木」は、米当局の承認はまだ得られておらず、いまだ危険度は高いと考えられている。

 移植手術の対象となった最初の子どもは、生後3か月の男児だった。研究チームによると、現在は3歳になり、健康で、幼稚園に通っているという。

 他の男児2人は手術当時、生後5か月と16か月だった。彼らもまた健康な状態を維持しており、合併症も起こしていない。

 論文主執筆者で、米ミシガン大学(University of Michigan)付属C.S.モット小児病院(C.S. Mott Children's Hospital)のグレン・グリーン(Glenn Green)准教授(小児耳鼻咽喉学)は「これは、この病気の初めての完治例だ」と語る。

 同准教授によると、気管気管支軟化症は、世界の子ども約2000人に1人の割合で発症するという。この病気にかかった子どもの気管はつぶれやすくなるため、息を完全に吐き出すことができなくなる。可能な唯一の処置は、鎮静剤の使用と集中治療だ。だが、感染症や合併症が発生する場合が多く、生命予後は「不良」だと同准教授は説明する。

 研究チームは、体に合った移植組織を作成するため、子どもの気道のCTスキャンデータを使用した。移植用の「添え木」は生体適合物質で作られ、子どもの成長に伴って広がるように設計されている。

「3D印刷された添え木は中空の多孔質管で、症状がみられる気道に縫合された。材質は体内で無害に分解される高分子化合物のポリカプロラクトンだ」と論文は説明している。

■短時間で高精度、手術の事前練習も可能

 移植組織の設計と印刷に要した時間は、1日から3日だった。

 さらにこの方法には、医師らが気管と気管支を事前に印刷し、手術の練習を行ってから実際に子どもに手術を施すことができるという利点もある。

 グリーン准教授は「これは最終的にかなりの時間の節約になる上、これまで可能だった水準よりはるかに高い精度で手術を行う助けになる」と話す。

「私はこれを、手術において現在起きている最大の変化の一つとみなしている」

 子ども約30人を含む臨床試験が、間もなく開始される予定だ。

 補聴器、人工歯根、体内の管を拡張する医療機器のステント、体の欠損部を補う人工装具なども、3D印刷で作られている。(c)AFP/Kerry SHERIDAN