【12月24日 AFP】地球に大陸が1つしかなかった太古の時代の魚の目の化石の研究から、色を認識する視覚が3億年以上前には存在していた可能性があることが分かったとする論文が23日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)で発表された。

 熊本大学(Kumamoto University)などの研究チームは、恐竜が現れるはるか以前に生息していた棘魚(きょくぎょ)の一種の化石を分析し、光を感受する「棒状」と「円錐状」の視細胞を発見した。これら「桿体(かんたい)」細胞と「錐体(すいたい)」細胞とみられる構造は、これまでに発見された中で最古のものという。

 論文共同執筆者の一人、熊本大の田中源吾(Gengo Tanaka)氏は「これは世界初の脊椎動物の網膜の化石の発見だ」と語る。

 軟組織は通常64日以内に腐敗してしまうため、目の化石が発見されることは極めて珍しいと論文の著者らは指摘している。

 米カンザス(Kansas)州にあるハミルトン採石場(Hamilton Quarry)は、生態系全体が急速に堆積物の下に埋もれてできたとみられ、保存状態の良い化石の宝庫となっている。

 この場所で発見された化石の中には、絶滅した棘魚の一種である「Acanthodes bridgei」の化石が含まれていた。これは、これまで知られているものの中で最古の顎を持つ脊椎動物(顎口類)に分類される。

 長い流線型の体と、とげのあるひれを持つこの生物は、浅瀬の汽水域に生息していたと考えられており、約2億5000万年前のペルム紀末に絶滅した。この時に起きた地球史上最大の大量絶滅では、9割近くの生物種が姿を消した。

 ハミルトン採石場で発見されたAcanthodes bridgeiの化石標本には、元の目の色と形、さらには光を吸収する網膜色素などの要素が保持されていた。

 田中氏はAFPの取材に、この化石はリン酸塩の薄い被膜で覆われて保存されていたと語り、組織の分析から「化石に含まれる石化した桿体細胞と錐体細胞の世界初の記録が得られた」と論文に記した。

 これらの細胞と、光を吸収するメラニン色素がともに存在することは、薄暗い光の中では感度の高い桿体細胞を使い、明るい日中は錐体細胞を使ってものを見ることができた「可能性が高い」ことを示唆している。現代の動物では、錐体細胞が特定の波長の光に個別に反応するため、さまざまな色の識別が可能になっている。

 論文は「錐体細胞の存在は、Acanthodes bridgeiが色覚を持っていた可能性が高いことを示している」としているが、結論付けるためには決定的な証拠が必要だという。

 視覚は5億2000万年以上前から存在したと考えられているが、見つかった化石は色を感知する受容体についての世界初の直接証拠だという。(c)AFP