【9月2日 AFP】脳腫瘍を患う息子に十分な治療が提供されていないとして、医師の承諾なしに英国の病院から退院させ、逃亡先のスペインで逮捕された夫婦について、英国内で同情の声が高まっている。

 ブレット・キング(Brett King)容疑者(51)とナゲメ・キング(Naghemeh King)容疑者(45)の夫婦は、息子のアーシャ(Ashya King)君(5)を英南部サウサンプトン(Southampton)の病院から医師の承諾なしに退院させて逃亡したため国際手配され、先月30日にスペイン南部マラガ(Malaga)付近で拘束された。最近手術を受けたばかりで、特別な機器による栄養供給を必要とするアーシャ君は現在、スペイン南部の病院に入院している。

 夫婦は本国送還への同意を拒否しており、1日にはスペイン・マドリード(Madrid)の高等裁判所によって、勾留期間の最大72時間の延長が言い渡された。

 英国の世論は、アーシャ君の健康状態に対する懸念から、一家の窮状に対する同情へと傾いている。またソーシャルメディアなどでは、警察の対応に対する怒りの声も上がっている。

 警察は入院しなければアーシャ君の命に危険が及ぶと警告していたが、ブレット容疑者らはユーチューブ(YouTube)に投稿した動画の中で、アーシャ君は適切な状態に置かれていると反論していた。

 09年に息子イバン君を6歳で亡くしているデービッド・キャメロン(David Cameron)英首相は、最優先されるべきはアーシャ君が最適な医療を受けられることだとの見解を表明。首相は報道官を通じ「もちろん、すべての親が子どものために最善を尽くしたいはずだ。おそらくそれこそが、人間の本能の中で最も人間らしいものだろう」と述べた。

■「批判続ければ面会拒否と脅された」

 父親のブレット容疑者は、アーシャ君の脳腫瘍の治療として、放射線治療ではなく、陽子線療法を希望している。しかし、英国民保健サービス(National Health ServiceNHS)では陽子線療法は提供していない。

 一家の弁護士によると、夫婦はマラガに所有するマンションを売却し、米国とチェコで可能な陽子線療法のための治療費を捻出しようとしていた。弁護士は、夫婦が英国で医師と病院を相手取り、名誉棄損と虚偽告発で訴訟を起こす構えだと述べている。

 アーシャ君が治療を受けていた英サウサンプトンの病院側は、セカンドオピニオンの入手方法や国外で治療を受けるための支援を申し出たと主張している。しかし、ブレット容疑者は拘束される直前に撮影したビデオで、同病院の治療方針に対する批判を続ければ、息子との面会を拒否すると脅されたと述べている。

 一家が逃亡した直後から、アーシャ君の一時的後見人としての権利を獲得した地元自治体は、アーシャ君に治療を受けさせるよう命じた。英国放送協会(BBC)の報道によれば、キング容疑者が連絡をとったチェコの首都プラハ(Prague)にある病院が、条件を満たせばアーシャ君の受け入れが可能であると表明している。

 英公訴局(Crown Prosecution ServiceCPS)によれば、キング夫婦の容疑は「16歳未満の人物に対する虐待」となっている。しかし検察当局は、キング夫婦を訴追するかどうか現在まで決定を下していない。(c)AFP