【5月9日 AFP】欧米の文化圏では、アジア文化圏よりも「個」を重視する傾向がみられるが、それぞれの文化に違いが生じる理由とはいったい何なのだろうか──。この傾向については、それぞれの地域で歴史的に栽培されてきた穀物の違いに関係している可能性があるとした心理学者チームの研究論文が、8日の米科学誌サイエンス(Science)に発表された。

 米バージニア大学(University of Virginia)博士課程(文化心理学)のトーマス・タルヘルム(Thomas Talhelm)氏率いる研究チームが発表した「コメ理論」では、伝統的に水稲栽培を行ってきた人々は、稲作に関わる労働の厳しさと近隣の人々と協力する必要性があるために、時間とともに集団的で全体主義的な傾向が強くなると考えられている。

 それに対し、コムギを栽培する地域の人々は、コムギはコメに比べて労働量が大幅に軽減されるため、他の人々と協力する必要性も稲作の比ではないという理由から、自立的・分析的に考える傾向が強くなると研究チームは主張している。

 タルヘルム氏は「両文化の違いはコメ理論で部分的に説明できるとする説をわれわれは提唱している」と語る。

 世界各地の文化には多種多様な違いがあり、また宗教、政治、風土、技術など多くの要素が関係していることから、研究チームは今回の対象を中国に絞った。中国では、長江(揚子江、Yangtze River)を境にして、コムギを栽培している北部とコメを栽培している南部とに大まかに二分される。

 研究チームは、国民の大多数を占める漢民族(Han Chinese)で、6か所の異なる地域出身の学生1162人を対象に、文化的な思考様式、絶対的な個人主義、忠誠心、縁故主義などについて調べるテストを行った。

 テストでは、ある個人の社会集団を示した基本的な図表の中から関連のある2項目を選択したり、仕事上の取引相手が友人の場合と他人の場合とでそれぞれ対処したりといった課題が出された。

 その結果、コメ栽培地域の人々は、より抽象的な組み合わせを選ぶ傾向がある一方で、コムギ文化出身の人々は、より「分析的」な組み合わせを選ぶ傾向がみられることが分かった。

 また、自分の社会的ネットワークを示す図表を作らせると、コメ栽培地域出身の人々は、コムギ地域の人々に比べて自分自身を小さく描く傾向がみられた。

 さらにコメ地方出身の人々は、友人に対して報いる傾向が強く、その一方で罰する傾向は弱かった。これは、社会面および仕事面での相互関係において、集団内の絆がどれほど優先されているかを示すものだ。

 タルヘルム氏は「中国を単一文化とみなすことは簡単だが、われわれは今回の研究で、中国には北部と南部で明確に異なる心理学的文化が存在すること、そして中国南部の人々が、コムギを栽培する北部の人々に比べて相互依存性が強い理由について、その稲作農業の歴史によって説明できることを明らかにした」と述べている。(c)AFP/Kerry SHERIDAN