■「誤った服用」に問題

 英カーディフ大学(Cardiff University)のティモシー・ウォルシュ(Timothy Walsh)教授(医微生物学)は、「世界の一部の国々では、抗生物質がすでに底をついている」と語る。

「インド、パキスタン、バングラデシュ、そしておそらくロシア、東南アジア、南米中部などでは、既に手遅れになりかけている。何も残っていない。しかも不幸なことに、供給経路にさえ残っていないのだ」

 薬剤への耐性は、細菌の遺伝情報の変化によって現れる。つまり、抗生物質が結合する細菌の表面に変異が生じ、抗生物質の侵入を拒み破壊を阻止する。このような耐性を獲得した菌は選択圧を経て進化したものだ。

 服用期間が短すぎる、服用量が少なすぎる、服用を途中でやめるなど、誤った方法での服用で、抗生物質に変異した細菌を殺す効果はなくなる。

 服用した薬剤は他の細菌にもダメージを与えるため、優位性を得た耐性菌は他の細菌を支配し増殖することになる。

 問題の根底には、医師による抗生物質の不適切あるいは不必要な処方がある。アジアやアフリカなどの一部の地域においては、処方箋なしで安易に薬剤を入手できるケースもあるという。