【7月15日 AFP】マングローブ林や湿地、サンゴ礁、森林、砂丘、その他の「自然の防御」を取り除くと、米沿岸部の洪水による人命と財産の損失が倍増することになるとの研究が、14日の英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジ(Nature Climate Change)に掲載された。

 米カリフォルニア(California)州スタンフォード大学(Stanford University)のケーティー・アルケマ(Katie Arkema)氏率いる研究チームは、地球温暖化による海面上昇が米国にもたらす危険性について、これまでで最も詳細に分析した研究を発表した。

 研究では、1キロメートル四方単位で人口、住宅不動産の価値、自然の防御能力、洪水の発生可能性などの要素を計算。結果、現状の海面水位と自然の防御能力のもとで、米沿岸部の16%が「高危険」地域と判定された。この「高危険」地域には高齢者25万人と貧困ライン以下で生活する3万世帯を含む130万人が暮らしており、同地域の住宅不動産価値は3000億ドル(約30兆円)に上った。

 だが、ここから自然の防御能力を取り除くと、「高危険」地域に含まれる住民数と不動産価値はほぼ倍増した。

「現在、自然環境は沿岸部の67%を保護している」と論文は指摘。「生態系が失われることにより、危険にさらされる沿岸部は倍増し、貧困世帯や高齢者の数と、危険にさらされる不動産の総額が倍増する」

■自然破壊と海面上昇が危険エリア拡大要因に

 さらに、地球温暖化による海面上昇で、危険にさらされる地域は増加するという。

 研究チームは、地球の平均地表気温が今世紀に2.0~5.4度上昇するA2と呼ばれる一般的な温暖化モデルで計算を行った。結果、住民200万人、総額5000億ドル(約50兆円)の不動産が「高危険」エリアに含まれた──このエリアはメキシコ湾から大西洋の沿岸部の大半と、サンフランシスコ湾(San Francisco Bay)の一部を含む広範囲なものになった。

 ここから自然の防御が取り除かれた場合、内陸部まで「高危険」エリアが拡大し、該当地域はさらに倍近くに増えた。

 米国の人口の多い上位25都市のうち、23都市は沿岸部に位置している。アルケマ氏は、今回の研究が政策決定者にどの地域が最も危険にさらされており、どの地域の自然環境を保護しなければならないかの指針を提供することができると述べた。(c)AFP