【5月6日 AFP】中国の研究チームが、モルモットからモルモットへ空気感染する鳥インフルエンザのハイブリッドウイルスを開発し、現在も研究所で冷凍保存していることに、世界の免疫学者らが3日、懸念を表明した。

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 中国農業科学院(Chinese Academy of Agricultural SciencesCAAS)と甘粛農業大学(Gansu Agricultural UniversityGAU)の研究チームは、鳥インフルエンザH5N1と豚インフルエンザH1N1の遺伝子を掛け合わせることで新たなウイルスを開発することに成功したと、米科学誌サイエンス(Science)に発表した。

 鳥を通じてヒトに感染するH5N1は、致死率は約60%だが、ヒトからヒトへは感染しない──この性質により、これまでのところパンデミック(世界的大流行)は起きていない。

 世界保健機関(World Health OrganisationWHO)によると、2003年以降、H5N1の感染者は628人に上り、374人が死亡した。一方、メキシコで発生したH1N1は、09~10年のパンデミックの際、世界人口の5分の1に感染したが、致死率は通常のインフルエンザと同程度だった。

 中国の研究チームによると、新型の変異ウイルスは、呼吸器分泌物の飛沫によりモルモットからモルモットへ容易に感染した。チームは、致死性の高いH5N1が「ほ乳類間の伝播能力」を獲得するためには、遺伝子のごく単純な突然変異しか必要ないことが証明されたと述べている。

 ウイルスの混合は、2種のウイルス株が同じ細胞に感染し、遺伝子再集合と呼ばれるプロセスにより遺伝子を交換した際に自然に起きる現象だ。だが、これまでのところ、H1N1とH5N1でそのような現象が自然に起きたことを示す証拠は見つかっていない。先んじて今回の研究が、突然変異ウイルスを人工的に作成することで人類を危機に陥れているという批判が一部ではあがっている。

 仏パスツール研究所(Pasteur Institute)のウイルス学教授、サイモン・ウエインホブソン(Simon Wain-Hobson)氏はAFPの取材に対し、6年前に流行を引き起こした英国の研究所からの口蹄疫ウイルス流出について指摘した。

 中国のチームが作成したハイブリッドウイルスは、モルモットでは致死性が低く、ヒトに対してどのような影響を及ぼすかも分かっていない。だが、ウエインホブソン氏は「これらがパンデミックウイルスになる可能性もある」と警告する。「仮に何らかのミスがあったり、このウイルスが流出してヒトに感染し、10万~1億人の死者を出すことはありえる」

 一方、ロンドン大学クイーンメアリー(Queen Mary University of London)のウイルス学者、ジョン・オックスフォード(John Oxford)氏は、この研究は警鐘を鳴らす上で有効だと評価する。この研究により、今も世界各地でヒトに感染している2つのウイルスの間で遺伝子交換が起きる可能性があることが示されたという。

   「数学的に考えれば、遅かれ早かれ、誰かが両方(のウイルス)に感染する」とオックスフォード氏は述べ、そこから混合種のウイルスが「拡散を始める」可能性があると語った。「われわれはパンデミック対策を見直し、H5N1ワクチンの在庫を豊富に確保しなければならない」

(c)AFP/Mariette LE ROUX