【11月10日 AFP】脳波を検査すれば、実際には意識があるのに永続的な植物状態にあると誤診するケースを防げるとする論文が、10日の英医学誌「ランセット(Lancet)」に発表された。携帯可能で安価な診断手法や、意識のある患者と意思疎通を可能にする技術の開発に期待がかかる。 「昏睡状態」が意識がなく覚醒してもいない状態を指すのに対し、「持続的あるいは永続的な植物状態」は「自己や環境についての意識はないが覚醒した状態」と定義されている。この「持続的な植物状態」は、脳死と異なり法律上は人の死と認められていない。

 カナダ・ウエスタンオンタリオ大学(University of Western Ontario)の研究チームは、脳を損傷して植物状態になった患者16人と、健康な対照群12人の頭皮に脳波を測定するセンサーを装着し、脳活動に起因する電気信号を記録した。

 自分の右手と左右のつま先を動かす場面を想像してみてくださいと告げたところ、患者16人のうち3人に、正確かつ持続的にはっきりとした脳波が検出された。実際には動かすことはできなかったものの、体の部位を動かすよう指示された時の頭頂部の電気信号は、制御信号と完全に一致していた。

 論文は、この実験だけでこれら3人の患者の「内面世界」に関する結論を導き出すことはできないとしながらも、指示を理解し脳内で処理する作業は持続的な注意力を要し、正しい答えを選択し言語を理解するなど、複雑だと付記した。

■患者とのコミュニケーションも可能に

 この脳波検査に基づく診断手法は、脳内の血流を監視し植物状態の患者の意識を探る実験にも用いられてきた機能的磁気共鳴画像法(fMRI)ほど高感度ではないと考えられている。だが、fMRIスキャナーは極めて高価なうえ、交通事故で脳を激しく損傷した場合など体内に金属が入った患者には使用できない。

 ウエスタンオンタリオ大の研究者らは脳波診断について、安価で携帯可能なため広く活用でき、客観的な結果が示される手法だと話している。診断の精度を向上させ、全身が麻痺していても意識のある患者と意思疎通を図ることも可能になるかもしれないという。

 心的イメージの差異をリアルタイムで分類できるよう改良が進めば、単にイエスかノーかの回答にとどまらず、表現豊かな双方向のコミュニケーションが可能になるだろうと、論文は締めくくっている。(c)AFP